社長の息子、入社してすぐに大ヒット商品を開発 それが面白くなかったのは「カリスマ」で「靴下の神様」の社長だった…
◆入社直後、大ヒット商品を生んだのに…
――3年後にダン(現・タビオ)に入社して、どのような仕事を担当したのですか? 当時、会社は業績も好調で、上場の準備をしていました。 私は商品部に配属され、直営の数店舗と当時トレンドの最先端だった「心斎橋ビッグステップ」の店舗の商品担当兼営業を任されました。 各店の商品構成などを考えることになったのですが、「ビッグステップ」の店舗は、若い女性が多いのに、ビジネス用のソックスやキッズ用の商品を扱っていて、「なんだ、このダサい店は!」と愕然としたのを今でも覚えています。 これでは売れないと思い、ビッグステップの店舗は若い女性にもアピールできる業態にリニューアルしようと提案しました。 本来、新入社員が大それたことはできません。 でも、社長の息子ということで、上の人が相談に乗ってくれて話を進めてもらったのです。 ――その取り組みの結果は? ターゲットを若者に設定したのはいいですが、自社に売れそうなものがありませんでした。 目をつけたのが、当時は誰も担当者がいなかったタイツです。 商品部長に「タイツを扱わせてほしい」と直談判して、イチからつくったのがピンクやブルーなど24色のカラータイツのシリーズでした。 社内に開発を手伝ってくれる人がおらず、取引業者の工場にも協力を断られてしまいました。 そこで芸大出身の私の血が騒ぎまして、自分でビーカーを使いながら色を染めたりして商品を完成させました。 商品パッケージも自分でデザインしました。 店頭に並べてみたら大ヒット。 全国の店舗で扱うことになり、会社の売り上げにも相当貢献しました。 ――華やかなデビュー戦を飾ったわけですね。 そのとおりです、と自慢したいところですが、実際はこの大ヒットが、私のタビオでの先行きを困難にしてしまいました。 タイツの売り上げが好調だったおかげで上場の会計基準をクリアできたこともあり、会社としては万々歳のはず。 でも、いきなり社長の息子が入ってきて店をリニューアルし、新しいブランドを立ち上げるなど、およそ新入社員では考えられない勝手なマネをして、しかもそれがヒットしてしまった。 当然、面白くない人が出てきます。 一番ショックだったのは、その筆頭が社長、すなわち父だったことです。 「カラータイツのおかげで上場できた」と噂され、父のプライドが傷ついたのでしょうね。 さんざんこき下ろされました。 ――せっかく成果を出したのに、それで叱られてしまうとは……。 ただ、私が腹を立てることはありませんでした。 嘘っぽく聞こえるかもしれませんが、わりと冷静にその状況を見ていました。 創業者らしい、分かりやすい面も父の人柄としての魅力でしたから。 それに、もしかしたら父もざわつく社員の手前、息子に厳しく言う必要があったかもしれません。 ただ、今だから言いますと、2代目で若手の頃は、「ちょっとダメなヤツ」を演じたほうが、楽だろうとは思います。 ――そこは後継ぎの「処世術」なのでしょうか? そうですね。 といっても、父はその頃、私に継がせる約束をしていたわけでもなく、私自身も自分が継ぐことは全く考えていませんでした。 ただ、周りから見れば当然、「息子だから」「後継ぎだから」という目で見ますよね。