「チャンスは初日」大の里の新三役での横綱初撃破を師匠が予言していた 自身も経験「僕もそうだった」
◆大相撲 ▽夏場所初日(12日、東京・両国国技館) 新小結・大の里(23)=二所ノ関=が、照ノ富士(32)=伊勢ケ浜=をすくい投げで破る大仕事で、横綱戦初勝利を挙げた。初顔合わせで屈した初場所の雪辱を果たし、2018年初場所の貴景勝以来となる新三役初日での横綱撃破。観戦した母・朋子さん(48)に最高の「母の日」のプレゼントを贈った。初日は1横綱4大関が全滅する波乱のスタート。デビュー7場所目、ちょんまげ頭の元アマチュア横綱が場所の主役を奪う。 横綱が腹ばいに土俵に沈んだ。大歓声を一身に浴びた大の里は息を吐き、勢いのまま小さくジャンプをした。「気持ちが高ぶることなく、落ち着いてた。納得がいく相撲が取れた」。何度もうなずくと、48本の懸賞を受け取り、胸を張って花道を戻った。今場所からまげを結うスピード出世の23歳は初土俵から1年の節目に横綱初撃破。記念の“まげ1勝”にも「まだ取組はある」と気を引き締めた。 立ち合いで右を差すと、左もねじ込んで寄り立てる。強引な左小手投げで振られたが、落ち着いてすくい投げ。新入幕だった初場所では、初の横綱戦で冷静さを欠いて敗れた。「前回はむちゃくちゃ当たって、走ることだけを考え、投げられた。うまく腰を寄せて攻められた」。10日に初日の照ノ富士戦が決まっても「予想通り」と動じず。反省を生かし、春巡業で胸を出してもらった“恩返し”も果たした。 新小結が初日に横綱撃破は18年初場所、貴景勝が稀勢の里に土を付けて以来6年ぶり(不戦勝を除く)。自身の経験を踏まえた、大の里の師匠・二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)の「チャンスがあるなら初日。横綱、大関でも初日は中々感覚をつかめない。僕もそうだった」との予想は的中。左脇痛による稽古不足で不安を抱える照ノ富士をのみ込んだ。 この日は、母・朋子さんら家族が国技館を訪れた。幕下10枚目付け出しでデビューした昨年夏場所の一番相撲(初日)は「母の日」だったが、観戦していた朋子さんに白星は贈れなかった。今年は、これ以上にないプレゼントに。「1年後に横綱と結びの一番を取れるなんて。しっかり目に焼き付けてくれたかな。気を付けて帰ってほしい」と孝行息子は笑った。 師匠は「最初の5日間をうまく乗り切れれば、台風の目になるチャンスはある」。大の里も「初日からの5日間が大事」と足元を見つめつつ「15日間は長い。今日の勝ちをつなげたい」と見据える。先場所は千秋楽まで優勝の可能性を残すも、大いちょうが結えない新入幕・尊富士に優勝をさらわれた。2場所連続で“ちょんまげ旋風”を巻き起こし、今場所こそ賜杯を抱く。(山田 豊) 【元大関・琴風Point】 やはり大の里は規格外だった。2本差しの立ち合い。右を入れると左を探りながら体を揺すって前に出た。照ノ富士が左から投げにきたところを右のかいな(腕)を返して転がした。 先場所からの勢いが止まらない。大の里に挑戦者という気持ちは、ないのかもしれない。どんな相手でも「勝てる」と信じて土俵に上がっているような気がする。先場所の自信と巡業の汗が大の里をさらにパワーアップさせている。 照ノ富士はいつも通りの立ち合いだったが、はじき飛ばす馬力が欠如していた。馬力は稽古の量に比例すると言われる。馬力がなくなると重さもなくなる。体重の重さではない。初日を見る限り、一番重要な相撲の重さがない。(元大関・琴風、スポーツ報知評論家) ◆新三役の初日に横綱撃破 昭和以降で新三役(関脇含む)が初日に横綱と対戦したのは1947年11月場所で小結・桜錦が横綱・羽黒山と対戦したのが最初で、過去132例。57年5月場所に小結・安念山が横綱・栃錦を初撃破して以降、19勝。
報知新聞社