埼玉県“クルド人差別”が社会問題化も「ヘイトスピーチ禁止条例」制定には慎重な姿勢… 背景にある「表現の自由」のジレンマとは
禁止条例は「表現の自由」を侵害するおそれがある
大野県知事も言及したように、法律や条例によってヘイトスピーチを禁止することには、市民の「権利」の制限や侵害につながるリスクが含まれている。 具体的には、ヘイトスピーチ禁止条例には「表現の自由」(憲法21条)という憲法上保障された人権を侵害しうるという問題点がある、と埼玉弁護士会に所属する金井勝俊弁護士は指摘する。 「いわゆる『ヘイトスピーチ』とされる言論であっても『政治的な言動』の一種であるため、『表現の自由』や『政治活動の自由』によって保障される対象となります。 したがって、それらの重要な権利を侵害する可能性がある点が、禁止条例のデメリットであると考えます」(金井弁護士) 一方で、ヘイトスピーチは、標的となった人々が自由に生きる権利を侵害するおそれがある。川崎で罰則付きの条例が制定された背景にも、同市の桜本などの地域に暮らす在日コリアンに対するヘイトデモが数年にわたって繰り返されていた問題が存在する 。 金井弁護士も、川崎市の条例については「誹謗(ひぼう)中傷が止まなかったことから、在日コリアンの方々に対する暴力的な言動等について防止する必要があったと理解している」と語る。 それでも、ヘイトスピーチ禁止条例の是非について抽象的に判断することは困難であるという。 「結局のところ、当該自治体においてどのようなヘイトスピーチが繰り返されているのか、その弊害とは何か、制約の内容や違反した場合の罰則をどう設定するか、制約を与えたり、罰則などを科す場合の手続き的な保障をどのように図るかなど、具体的な事情をふまえて判断することが必要になります。 たとえ川崎市の事例があるとしても、ヘイトスピーチに関する実情は自治体ごとに異なるため、一概に『賛成』や『反対』と述べることはできないのです」(金井弁護士)
弁護士JP編集部