メジャー驚愕の柳田サヨナラ逆転弾を演出した稲葉監督「苦渋の選択」
勝利最優先の稲葉イズムの浸透
9回一死からノーヒットの菊池涼介(広島)に代えて打席に送った上林誠知(ソフトバンク)がファウルで3球粘ってセンター前ヒット。続く秋山翔吾(西武)の打席でカウント1-2から盗塁を仕掛けた。秋山は三振に終わったが、上林は二塁に生きた。 実は、これは走者の判断で走れたら走るの「グリーンライト」ではなくベンチのサインだった。 「リードをしていればいけいけだが、追う展開。確率が高くなければ走れない」と、WBCでの勝負強いバッティングが印象深い井端弘和コーチが説明した。 イエーツのクイックが遅いことをベンチがタイムウォッチで計測した上で弾き出した計算尽くされた機動力。この日、チームは3つの盗塁を決めたが、すべてに根拠があった。 スコアリングポジションに走者を進めると稲葉監督は4番の山川穂高(西武)に代えて代打・會澤を告げた。 山川は、ここまで3三振。「台湾戦を含めて自分のタイミング、間合いで打てていないと判断した。ジャパンとして勝つことを目標としている以上、他のメンバーもいる中、最善の努力をする。どうすれば勝てるのか。4番を代えるのは苦渋の選択だったが、會澤にかけた」 苦渋の選択の末の非情采配だった。 リーグ3連覇を果たした広島の主将は、ベンチの期待に応え150キロのファストボールをしぶとくセンター前へ弾き返す。1点差に迫って、しかも、走者を代えて、バッテリーにプレッシャーをかけた。柳田のサヨナラ舞台が整っていた。 優勝を争う国際大会でもない日米“の親善試合”に勝利最優先主義をチームに持ち込むことは簡単ではない。 だが、5回に走者一掃の同点タイムリー二塁打を放った秋山翔吾(西武)は「試合前から雰囲気をよくしたい、声を出していこうとみんなで話をしていた」という。 「追いかける展開になったが、1点ずつ食らいついていけた日本らしい野球だった気がする。やるべきことをやった結果が勝利につながった。勝つことが目標と監督が言われている。こういう勝ち方をすると、なにかしらの自信と勇気がわいてくる。明日からの戦いにつながる」 稲葉イズムが早くもチームに浸透している。 しかも、稲葉監督は“非情”だけではない。 追加召集した1軍でもまだ実績のないロッテの成田翔が、その代わりばなの5回一死一、二塁からサンタナにどでかい3ランを浴びた場面の事情を説明して「申し訳なく思っている」と謝罪した。実は、今大会には、80球制限が設けられており、先発の岸孝之(楽天)が、予想に反してサンタナを迎える前で、その制限を突破したため、ブルペンで作っていた投手が成田しかおらず緊急登板となってしまったのである。 「本当はもっと楽なところで投げさせたかったのが本音。ああいうタフな場面で打たれてしまったが、打たれた後も逃げなかった。次にこれを生かしてくれればいい」 このコメントを目にする成田は、きっと救われた気持ちになるだろう。