「こんな日が来るなんて」全盲の私には夢だった「1人で散歩」ができた 願いを叶えたアプリの衝撃、その先に見えた課題
「喫茶店とか、全然知らない店がたくさんあった。カルチャーショックを受けた」 体験会に参加した高等部2年の宮崎さんも、期待を口にした。 「『散歩』という選択肢があるだけでうれしい」 注意が必要なのは、視覚障害者がこれまでまったく散歩に行けなかったわけではない。「同行援護」という支援制度があり、資格を持つヘルパーが移動のサポートをするほか、必要に応じて代筆や代読も行う。日本視覚障害者団体連合(日視連)によると、支援の用途は幅広く、散歩への同行も頼める。 ただ、地域によってはヘルパーの人数に限りがある場所もあり、費用もかかる。「思い立ったらすぐに外出」というわけにはいかない。結果として、自宅に引きこもりがちの当事者がまだまだ多いのが現状という。 それだけに、アイナビに関わるようになった川田さんの夢は膨らむ。機能をさらに拡張し、例えば道の脇の植物に反応して「きれいな花が咲いています」などと話してくれたら、一層楽しくなりそうだ。「散歩をするには誰かに同行してもらうしかなかった。でも、一人で歩きたいときだってありますよね」
アプリを開発したコンピュータサイエンス研究所の営業企画・企画開発統括部長の高田将平さんは、利用者の反応に驚いたという。「『散歩』にこんなに反響があるとは思っていなかった」 アイナビのダウンロード数はこれまでに1万回超。「息子が外出するようになった」「人生でなくてはならないアプリです」などと感謝の声が届いているという。 ▽音を消された信号機、命がけの横断 ただ、アイナビの障害物検出能力は完璧ではない。特にサービス開始当初は、遠くにある牛丼チェーン「吉野家」の看板を赤信号と誤認するなど、問題点がいくつも見つかった。一つ一つ解決しているが、それでも弱点はある。たとえば、青信号の点滅は検出できない。 川田さんはそうした点を踏まえ、利用者の努力の必要性も説く。「歩行訓練士に正しく指導してもらうなどして、安全に歩くスキルを視覚障害者本人が身に付けることも大事だ」 必要なのはそれだけではない。目が見える人の支援や理解も欠かせないと強調している。