「こんな日が来るなんて」全盲の私には夢だった「1人で散歩」ができた 願いを叶えたアプリの衝撃、その先に見えた課題
体験したうちの1人、高等部2年の宮崎保和さんは弱視。白杖を持ち、点字ブロックの上を歩いていたところ、さっそくスマートフォンから「ポール、ポール」と注意を促す音声が聞こえてきた。 宮崎さんの左手前方の歩道上には、横断歩道があることを示す標識ポールが立っている。点字ブロックから少しはみ出ると、ぶつかりかねない位置だ。 宮崎さんは「なんか安心」とつぶやき、ゆっくりと標識の脇を抜けた。 さらに進むと「3時の方向にファミリーマート」とお知らせが入った。 宮崎さんは「おおー」と感嘆の声を上げた。私が確認すると、店は確かに3時の方向にあった。 さらに進んだ宮崎さんはそこで立ち止まり、試しに車道の方を向いてみた。すると「左に向いて下さい」と注意の音声が響く。体の向きを元に戻すと、すかさず「正しい方向です」。 宮崎さんは思わずスマホに「ありがとうございます」と話しかけ、ほおを緩めた。
視覚障害者にとって、この「向きを修正する」機能は特にありがたいという。まっすぐ進むことが、点字ブロックなどの補助なしでは難しいためだ。 ゴール地点の学校に戻ってきた宮崎さんは「いい経験になった」と声を弾ませた。 ▽「自分にはできないと思っていた」 体験会では、広報を担う川田さんが文京盲学校の教員や生徒らに機能などを説明した。とりわけ熱を込めて話したのが、「散歩」を支援する機能だ。 このアプリには「目的地モード」と「お散歩モード」の二つがある。前者はその名の通り、目的地までの道案内をしてくれる。 後者は目的地を特に設定せず、周辺の施設の情報を案内したり、障害物や信号、横断歩道を知らせたりしてくれる。これを使えば、目が見えなくても散歩ができる。 川田さんは「お散歩モード」という名称を初めて聞いた時、衝撃を受けた。 「常識を揺さぶられた」と感じたという。全盲の自分には不可能なことだったからだ。早速、アプリを起動させ、試しに自宅の周りを歩いてみた。すると、新鮮な驚きに包まれた。