なぜ教師は「魅力的な職業」ではなくなったのか、公教育の危機に必要な優秀な人材確保のための3条件 「多忙・授業以外の負担大・残業代なし」への対処
教師が「魅力的な職」になるための3つの条件
「質の高い教師」あるいは「優秀な人材とはどんな人のことを指すのだろう」という議論を始めるとややこしくなるので、ここでは深入りしないが、優秀な人材にもっと来てもらうためには、何が必要だろうか。 大学生向け調査(関連記事)などを参考に、また一般常識に照らしても、とくに重要な条件は3点あると、私は考える。(1)多忙の解消(働きやすさアップ)、(2)意義のある仕事に集中できること(働きがいアップ)、(3)処遇がよいこと(好待遇、給与アップ)だ。 もちろん、人によって仕事に求めるものや価値観は異なるので、さまざまな要素が重要となりえるが、上記3点に違和感のある人は少ないだろう。だが、今の公立学校はこの3点に大きな問題がある。 1つめの働きやすさに関しては、毎日忙しくて、ワークライフバンスがよい職場とは言えない。過労死等が起きているし、育児などと両立しやすい仕事とは言い難い。 2つめの働きがいは、「授業や教材研究は楽しいし、やりがいがある」、「子どもの成長に携われる、いい仕事だ」と述べる教員はとても多いが、事務作業など負担感の募る仕事もあるし、保護者からの理不尽なクレームに悩まされるケースもある。 部活動は、やりがいを感じる人と、やりたくない教員とで差が大きい。また、忙しすぎるので、職場の内外での同僚などとの支え合いや切磋琢磨もどんどん弱くなってくる。働きがいや成長という点でも課題があるのだ。 3つめの給与は、正規職なら給与水準がすごく低いとは言えないとは思うし、公務員なので恵まれているところも多々あると思うが、残業代はつかないし、民間やほかの公務員と比べて、魅力的な給与条件とは学生などには映っていない。
働き方改革、教職員定数の改善、処遇改善の3本柱
では、今回の審議のまとめは、どうなっているか。調整額だけの話ではなく、働き方改革の加速化、指導運営体制の充実(教職員定数等)、教師の処遇改善の3つを一体的に進めることが、最大のポイントになっている。 働き方改革の加速化では、2019年に出した中教審答申をベースに、学校・教員の業務の3分類をさらに推進することなどが明記されている。 例えば、会計事務などで教員の負担感が強い学校はまだあるが、これは原則教育委員会の仕事としている。また、登下校中の見守りやトラブル対応は、基本的には保護者責任の領域であり、学校の管理責任下ではない。 学校行事の準備や運営は、教員の業務ではあるが、コロナが落ち着いたからといって、過度に演出に凝って、長い時間やる必要はない。長くなるのでほかは割愛するが、こうした業務の見直しをいっそう進めることを、中教審も述べている。 「教職調整額を10%に上げるといった小手先ではなく、教員の業務をもっと減らしてほしい」「文科省は方針を示せ」という批判があるのだが、以上の経緯を踏まえると、やや的外れかと思う。文科省が悪いというよりも、教育委員会で施策化、予算化できていない問題や、保護者のことを気にしすぎて校長が働きかけをしていない問題にも目を向けるべきだ。 もっとも、文科省が学校の負担を増やしている部分も大いにあるので(学習指導要領の内容やGIGA端末の管理など)、そこはしっかり反省して、対策を講じてほしいことは、私も何度も意見を出している。 次の図では、私なりの理解、解釈とはなるが、前述した優秀な人材を確保するための3条件と照らして、今回の3つの柱がどこに対応するかを図示した。