なぜ教師は「魅力的な職業」ではなくなったのか、公教育の危機に必要な優秀な人材確保のための3条件 「多忙・授業以外の負担大・残業代なし」への対処
中教審の「審議のまとめ」に批判相次ぐ
少子高齢化などを背景として、学校現場に限らず、さまざまな業界で人手不足が生じている。ただ、教師のなり手不足は、未来を担う子どもたちの教育に直結する深刻な問題だ。文科省も優秀な人材を教職に呼び込もうと必死だが、あまりうまくいっていない。本職である授業以外の業務負担が大きく多忙で残業代も出ない学校現場を魅力ある職場へと変えていくには、文科省や中教審のみならず教育委員会や校長などの管理職にも大きな変革が必要だ。教育研究家の妹尾昌俊氏に解説してもらった。 【図で見る】優秀な人材を採用、離職を防止するために重要な3つの条件 先月、中央教育審議会で、質の高い教師の確保のための総合的な方策※が出た。このタイミングだったのには2つの理由がある。教員の世界も人手不足が深刻化していることと、政府の骨太の方針が固まる前に打ち出しておかなくては、来年度の予算や事業に反映されにくいためだ。 ※「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ) この審議のまとめは、報道やSNSで厳しく批判されている。教職調整額(月給に4%分上乗せて支払われている)を10%以上に増額する案であり、残業代を支払わない教職員給与特別措置法(以下、給特法)を抜本的に見直さないからだ。 たしかにその問題も重要だが、給特法以外の方策や環境整備にも注目していく必要がある。給特法だけで解決できるほど簡単な問題ではないし、給特法の廃止には功罪がある(関連記事)。 ここでは、今回の審議のまとめの注目するべき点や背景について、解説する。なお、私も委員として審議に関わってきたが、中教審を代表する立場ではないし、個人の見解を述べる。本文や概要版もお読みいただいたほうがよいが、わかりづらい箇所もあるので、私なりに意訳したざっくりとした解説をしたい。
そもそも、何のためのまとめか?
今回のまとめは、なぜ出されたのだろうか。実は、このもっとも基本的な問いが重要なのだが、文科省等の説明や動きの一部には、はたして何のためのまとめなのか、あいまいになっている印象を受ける。 例えば、調整額のアップは手段の1つであり、それをやること自体が目的ではないはずだ。また、目的に照らして、対策が十分か、あるいは副作用や費用対効果などの点で優れた方策と言えるか議論されたほうがよいと思うが、どうしても報道やSNSでは、給特法という、これもまた手段の1つに注目が集まりがちだ。 審議のまとめ本文では、次の記述がある。 現在、子供たちが抱える課題が複雑化・困難化するとともに、保護者や地域からの学校や教師に対する期待が高まっていることなどから、結果として業務が積み上がり、現在の教師を取り巻く環境は、以下のとおり非常に厳しい状況にある。 子供の学びを支える教師は公教育の要であり、教師の質や量は子供たちへの教育の質に直結するため、現在の教師を取り巻く環境を改善しなければ、我が国の教育の質の低下を招きかねないと考えられる。このため、このような教師を取り巻く環境は我が国の未来を左右しかねない危機的状況にあると言っても過言ではない。 出所:文科省「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)p.7 かいつまんで申し上げれば、現状を放置すれば、優秀な人材が教員を目指さなくなり、それは子どもにとっても日本の未来にとってもよくない、という認識だ。 だから、「質の高い教師の確保」というタイトルになっているのであろう。人手不足は日本のあちこちの業界で起きているので、学校教育にだけ人をよこせというわけではないが、教員の環境への投資は、子どもへの教育に直結し、ひいては社会に影響するという話だ。