デンマークが拘束中の反捕鯨活動家、早期引き渡し要請に海上保安庁捜査トップを異例の海外派遣
日本の調査捕鯨船への妨害事件で国際手配され、7月にデンマーク自治領グリーンランドで拘束された反捕鯨活動家ポール・ワトソン容疑者(73)について、海上保安庁が9月下旬、捜査部門トップの警備救難部長を同国へ派遣し、身柄の引き渡しを直接要請したことがわかった。ただ、その後も判断は保留され、勾留は21日で4か月となった。釈放されれば、危険な妨害行為の再燃も懸念される。(森田啓文、浜田萌) 【年表】日本の捕鯨と妨害事件を巡る経緯
9月下旬渡航
海保関係者によると、海上犯罪の捜査を担う警備救難部長と刑事課の職員らは9月24日にコペンハーゲンへ出発し、往復を含め1週間近く渡航した。現地ではデンマーク司法省の幹部らと協議の場を設け、ワトソン容疑者の関与を裏付ける捜査資料を説明するなどして、早期の引き渡しを改めて要請した。
デンマーク側は引き渡し時期を明言しなかったが、同部長の異例の海外派遣について海保関係者は「捕鯨の是非を問うつもりはなく、あくまで法と証拠による検挙を目指す。その姿勢を示した」と強調する。
海保は2010年、南極海で捕鯨船への妨害を命じたとして、▽傷害▽威力業務妨害▽艦船侵入▽器物損壊――の4容疑で反捕鯨団体「シー・シェパード」代表だったワトソン容疑者の逮捕状を取り、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配した。当初は「青手配」で所在発見を要請し、12年に拘束を求める「赤手配」に切り替えた。
手配への対応はICPO加盟国の判断に委ねられるが、グリーンランドの警察は今年7月21日、「キャプテン・ポール・ワトソン財団」メンバーと船で主要都市ヌークに寄港したワトソン容疑者を手配に基づき拘束。海保は同31日に外交ルートを通じて引き渡しを要請していた。
立場「ねじれ」
ワトソン容疑者の勾留が4か月に及ぶ中、デンマーク側は依然、引き渡しの可否を決めていない。自治領のグリーンランドでは先住民による捕鯨が行われているが、本土のデンマーク政府は国際捕鯨委員会(IWC)などで反捕鯨の立場を取る。手配に応じて拘束したのに引き渡し判断が延びているのは、こうした「ねじれ」が一因とみられる。