ジャック・ニクラスのドライバースウィングをAIで分析【レジェンドを最新テクノロジーで大解剖③】
左ひざのニーアクションで、トップを大きく深く
続いてトップをご覧下さい。2つめのニクラスの特徴は、「左ひざのニーアクション」です。写真左がニクラス、右はブライソン・デシャンボーです。左ひざの左右の移動を表す「LEAD KNEE SWAY」のデータ(マイナスは右、プラスは左)を見ると、ニクラスはトップでマイナス18cm(右)と、左ひざが右に大きく動いていることがわかります。 両者ともその時代を代表するロングヒッターですが、ニクラスは左ひざを右に動かすニーアクションが大きいのに対して、デシャンボーは左ひざの動きが少ないことがわかります。ただ胸の回転(CHEST TURN)と骨盤の回転(PELVIS TURN)のデータを見ると、ニクラスのほうがデシャンボー以上に回転が深いことがわかります。※2022年のデシャンボーはもっと回転は深く、写真の今のほうが動きを抑えています データから分かるのは、ニクラスの左ひざのニーアクションとヒールアップは、胸と骨盤のより深い回転を促すことです。デシャンボーは肉体改造とハードなトレーニングによって、左ひざの動きを抑えても充分な体の回転量がありますが、約半世紀前のニクラスが現代のロングヒッターと同等の体の回転量があったことは驚きです。左ひざのニーアクションとヒールアップは、大きなスウィングアークが特徴だったニクラスならではの動きです。
高弾道の球を打つ工夫だった逆C型フィニッシュ
最後にフィニッシュを見てみましょう。写真左がニクラス、右はタイガー・ウッズです。胸と骨盤の左右差を表す「SWAY GAP」は、フィニッシュでニクラスがマイナス15.6cm(胸が骨盤より右)で胸が右に残っているのに対して、タイガーはマイナス0.4cm(胸が骨盤より右)で、胸と骨盤が左足の上に揃っています。 近年ではタイガーのように、左足の上に胸と骨盤が揃ったI字型フィニッシュの選手のほうが多くなりましたが、パーシモン&糸巻きボールの時代は、ニクラスのように逆C型フィニッシュが主流でした。当時のギアは今と違って低打ち出し&高スピンになりやすい特徴がありました。ニクラスのように逆C型のフィニッシュには、①「インパクトロフトを増やす」②「アタックアングル(縦の入射角)をアッパーにする」という効果がありました。インパクトロフトを増やすことで高い打ち出し角を確保して、アタックアングルをアッパーにすることでスピン量を減らす、当時のギアで高弾道を打つためのカギが逆C型フィニッシュだったのです。ただし、現代では「逆C型フィニッシュは腰への負担が大きく、ケガのリスクに繋がる」ことが浸透しているので、現代の選手では逆C型フィニッシュは少なくなりましたが、当時のギアで群を抜く高弾道を実現したニクラスが、高弾道を求められるマスターズで最多6回の優勝を実現できた秘訣の1つが「逆C型フィニッシュ」だったのかもしれません。 今回はジャック・ニクラスのスウィングを解説させて頂きました。レジェンド企画として、計3回にわたってパーマー、プレーヤー、ニクラスのBIG3の3人を分析させて頂きました。偉大なるレジェンドを最新のテクノロジーで分析するのは非常に興味深く、やりがいがありました。今年もプロ達のスウィングの秘訣を追求していきますので、引き続きAI分析シリーズをご覧頂けたら嬉しいです。
北野達郎