夏前に学校で教育を、「人は浮かない」ライフジャケット広める「サンタ」が警鐘 水辺の遊びが始まる前に子どもの水難事故対策
香川モデルが実現できたら、ほかの自治体でもできるはず
前例がないことによるハードルは想像以上に高かった。森重氏は「香川モデルでのライフジャケット整備は、本当はもっと早く実現できると思っていた」と苦労をにじませる。だが、地道な活動の効果もしっかり生まれている。 例えば、前述のレンタルステーションが開設されたとき、県教委では利用を促すチラシを6月に配布した。すると配布した当日のうちに、その夏じゅうのすべての利用予約が埋まってしまったそうだ。ライフジャケット着用の必要性を感じる人が増えていることの証拠だろう。 「取り組みを褒めていただくことはよくありますが、決して私だけの力で進んできたわけではありません。ときには泣いたりブチ切れたりしながら(笑)、自治体や国に向かっても声を上げてきました。それに共感して動いてくれるたくさんの仲間がいたから、香川モデルはここまで来られたのです。先生や子どもたちにも現場でどんどん声を上げてもらって、トップにそのニーズが伝われば、活動はもっと加速できると思います」 森重氏は教員時代を振り返りながら、「水難事故を防ぐことは、教室で起きている問題への対応と似ているところがある」と語る。 「水難事故が毎年起こっている今は、マイナスの状況にあるといえます。例えば10件の事故があれば、マイナス10点になっているということ。私たちが目指すのは事故をゼロにすることですが、進度や成果は目立たず、達成しても加点になるわけではありません。でもそこにはたくさんの人の大きな努力があって、プラスのベクトルが確実に働いている。表面上の結果はゼロでも、この上向きのベクトル自体を評価する世の中になってほしいのです」 前例踏襲の気運を打破し、ゼロに向かうプラスのベクトルに力を注ぐ。ライフジャケットの普及活動に必要なこの姿勢は、教育現場のさまざまな課題との向き合い方を、象徴的に示すものかもしれない。同氏はこう続ける。 「『すべての子どもにライフジャケットを』という目標が達成できたなら、それは学校が抱えるほかの課題もきっと改善できるはずだということ。そして香川モデルが香川県で実現できたなら、それはほかの自治体でもできるということだと考えています。まずは2、3年内に達成することを目指していますが、ライフジャケットが行き渡ったらそれで終わりだとは思っていません。その経験を生かして、また新たな課題に向き合いたいと思っています」 (文:鈴木絢子、注記のない写真:chadchai_k / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部