〈注目〉「子ども・子育て支援金制度」は少子化対策の特効薬になるのか?制度の持つ二面性にも目を向けよ
不合理な制度設計
支援金制度の第2の特徴は、制度設計に社会保険を採用したことによって生じた不合理である。この点については、「無理筋の財源調達方法」(高端正幸埼玉大学人文社会科学研究科准教授、都市問題、2024年6月号)、「都合のよい財布」(谷口智明第一生命経済研究所総合調査部研究理事、2024年3月1日)との批判がある。 そもそも、民間保険を含む社会保険は、被保険者が共通して抱えるリスクをカバーする仕組みである。医療保険なら病気やケガ、介護保険なら要介護状態、雇用保険なら失業などのリスクに備えて保険料を拠出する。そして、リスクが顕在化すれば、一定の要件のもとにサービスが提供される。保険料を支払う代わりに、万が一の保障を受ける権利を得る訳である。 一方で、社会保障制度には、これとは別にすべての国民を対象としたものがある。児童手当や生活保護制度が代表的なもので、それぞれ社会手当、公的扶助と呼ばれる。保険料の拠出を要件としない点で、社会保険と区別される。 一般に、社会保険は保険料で、社会手当や公的扶助は税でその財源を確保している。社会保険とは「万が一に備えて保険に加入する」もので、社会手当・公的扶助は「国民の生活を保障する」ものだからである。これをごちゃまぜにしてしまうと、負担と給付の関係が曖昧になる。
「見える」介護保険と「見えない」子ども・子育て支援金
なぜ、負担と給付の関係が曖昧になることが問題なのか。 たとえば、介護保険制度を例に考えてみよう。制度運営は、自治体ごとになっている。介護サービスを利用する高齢者が増えれば、保険料は高くなる。高額の保険料を受け入れるか、サービスを制限するかは、自治体ごとに判断する。 過疎地で特別養護老人ホームが増えれば、保険料は目に見えて高くなる。逆に、保険料が安い自治体では、介護保険事業者がおらず必要なサービスが受けられないこともでてくる。どちらを選択するのかは、難しい問題である。しかし、市民にとって「目に見える」問題となり、「どうすべきか」という議論が起こりやすくなる。 それでは、支援金制度はどうだろうか。制度運営は、国が統括することになる。子ども・子育てサービスを利用する子育て世帯が増えれば、保険料(支援金制度では「支援納付金」というが、わかりやすさを優先して保険料とする)は高くなる。しかし、その保険料が何に使われているのかは国民からは見えにくい。 サービスのメニューが示されなければ、「知らないうちに新しいメニューが増えて、そちらに財源が投入される」という事態になっても、気づくことが難しい。かつて、年金福祉事業団が運営する大規模保養基地「グリーンピア」が相次いで破綻するなど、年金の「無駄遣い」が社会問題となった。同じことが支援金制度で起きない保証はない。