〈中国「認知戦」の正体に迫る〉流出文書を追った調査報道、ネット空間はすでに戦時にある
NHKの「調査報道 新世紀File6中国・流出文書を追う」(9月22日)は、中国のサイバーセキュリティ企業・i-SOON社から流出した、577ファイルにもおよぶ大量の文書の正体を取材班が世界をかけて追いかけた、調査報道の傑作である。 【画像】〈中国「認知戦」の正体に迫る〉流出文書を追った調査報道、ネット空間はすでに戦時にある この文書は、世界の政府のセキュリティー部門ならず政策の決定の中枢まで、いまも揺さぶっている。中国が習近平主席のもとで2013年に「情報戦に向けた準備」を呼びかけた。その後、中国国内のサイバーセキュリティ企業は、最近まで約4000社まで増加して、警察組織の一部ともいえる治安対策を専門とする「公安」や、「軍」と共同で「認知戦」を仕かけている。
「世界的なニュース」であったi-SOON文書
認知戦とは、対象国のなかの分断の亀裂が入っているテーマについて、SNSなどを使って分断を大きくする活動である。そのかたわらで、対象国の国民に中国との関係を深めるように誘導する。 「i-SOON文書」とは、中国の上海に本社を置いていたサイバーセキュリティ会社の名前をとって、そこから何者かによって流出した文書を指している。 文書を発見したのは、台湾のサイバー攻撃対策会社の「TEAM T5」(台北)である。X(旧Twitter)のなかに謎のアカウント(github.com/I-SOON/I-SOON/)(注:アドレスではiが大文字)をみつけた。i-SOONの概要を調べたところ、従業員数約130人規模の中小企業だったので当初は重要視しなかった。 しかし、添付されたファイルをみると、この文書が「世界的なニュース」であることがわかってくる。「何者かが情報を外部に漏らすために作成したアカウントだった」と。サイバー攻撃に使えるツールが多数列挙されていた。 ・マイクロソフトやGoogleのメールアドレスに侵入できる ・PCをハッキングしてコントロールが可能にできる ・スマートフォンを遠隔する技術
説明書によれば、ターゲットのiOS(アップルの基本ソフト)からGPS(位置情報)を定期的に獲得できる。さらにターゲットのiOSシステムの周辺を定期的に録音、傍受できる。 ファイルのなかには、従業員同士のチャットが3年分もあった。