〈中国「認知戦」の正体に迫る〉流出文書を追った調査報道、ネット空間はすでに戦時にある
中国の公安や軍とのつながり
中国の「公安」「軍」とi-SOONをはじめとするサイバーセキュリティ企業はどのようにつながっているのか。そして、中国外務省の公式記者会見では中国側が否定している。海外でのハッキングなどの背景は――。 文書を発見したTEAM T5から取材班に「文書のなかから、彼ら(i-SOON)が使用したと思われるIPアドレス(インターネット上の住所)が見つかった」という連絡が入る。しかも、そのアドレスは過去にチベットのサイバー攻撃に使われていた。また、中国政府系のハッカーの中間地点にも登場する、という。 さらに、もうひとつのIPアドレスも発見したという。このアドレスは、TEAM T5のデータベースと照合した結果、中国のハッカー集団に属することが分かった。アメリカを主に攻撃していた。この結果は、米政府の報告書とも符合する。 「アメリカ当局は中国政府系のハッカーが“treadstone”という悪意あるプログラムによって攻撃したと指摘しています。この文書からもi-SOONがこの技術を提供したことがわかります」と。
同社のトップで最高経営責任者(CEO)のX氏とNO.2でエンジニアのY氏とのチャットのやり取りからも、中国の「公安」との関係が浮かびあがった。 X 昨日の販売プロジェクトの進捗報告は基本的に全て公安に関するものです。 Y 雲南省の公安当局にミャンマー軍のQB(情報)を紹介したところ、いい値段を提示してくれました。 取材班は、i-SOON社がある上海のビルを訪れる。会社があった部屋は、もぬけのからで机に並んだPCが部屋のガラス越しに見えるだけだ。管理人によると、従業員たちが警察に捕まって営業ができない状態だという。
社会の分断を引き起こす
中国が仕掛けている「認知戦」は、どのような影響を各国に与えているのか。 アメリカ・バージニア州にあるセキュリティー会社・マンディアントのチーフアナリストである、ジョン・ハルクイスト氏は、人種差別や銃規制の問題など、アメリカが抱える問題に中国がその分断工作をしている、と分析している。 「標的とする国に楔を打ち込むような問題を見つけて攻撃しています。(中国が)目指すのは政府やメディアが伝えることを信じさせずに、むしろ陰謀論や社会が分裂していると信じさせることです。デジタルを脱して現実を生み出そうとしているのです」と。 台湾で昨年12月に起きた、インド人労働者を移民させることに反対する運動が起きた。この裏にも、中国の「認知戦」があったと推察できる。 事件は大量の個人情報が漏洩した後に発生した。若い女性を中心として反対の集会が各地で開催された。集まった理由を聞くと、台湾のSNSである「OCARD」にあふれた投稿だった。 インターネット上の世論操作を分析している調査機関・ダブルシンクラボは、共同研究の結果、ひとつの投稿にたどりついた。 「インドから労働者を受けいれれば、台湾が性暴力の島になる」というものだった。反対集会の嵐が起きた3週間前にX(旧Twitter)に大量の投稿がなされ、反対運動が起き、それをウェブメディアが伝えた。複数のサイトで抗議集会の呼びかけが始まる。 同調査機関は、一連の流れが中国による「認知戦」だった可能性が強いとみている。 コメントの一部の用語が台湾では一般的ではなく、中国で使われているのが散見されたからだ。例えば、「盗難」は対話では使われず、それは中国で一般的である。台湾では「窃盗」を使う。日本語訳すると「頭が悪い」は、中国の用語で台湾では使われない。