「子どもができたら結婚すべき」vs「そんなの息が詰まる」、韓国人気俳優の“婚外子”スキャンダルが世論を二分した深いワケ
スター俳優にとってイメージはもちろん重要で、通常であればこうしたスキャンダルは致命的だが、今回の場合は単なる一芸能人のプライベートな問題を超え、韓国社会が抱える若者の非婚化と深刻な少子化、さらには男女間のジェンダー対立という根深い社会問題と分断を露呈する事態にまで発展している。 ● 韓国では「硬派」「左派」 「プロパガンダ俳優」として知られる立場 チョン・ウソンは格差・学歴社会が顕著である韓国において、まさに体一つで芸能界での成功をつかみ取ったサクセスストーリーの体現者と言える存在である。1973年にソウルで生まれた彼は貧困家庭で育ち、高校を中退したため最終学歴が中卒であり、そのために兵役は免除となったことなどが知られている。芸能人も学歴が重視される韓国社会において、チョン・ウソンは極めて「異色の存在」だった。 そうしたハンディをものともせず、多くの映画やドラマで主演に抜擢され、韓国にとどまらず海外でも知名度と人気を得て「韓流スター」となった背景には、彼の恵まれた外見や演技力の他に、慈善活動や政治・時事に対する積極的な発言など、硬派なイメージを印象づける戦略も大きく貢献したと考えられる。だからこそ、これまでの硬派なイメージとは真逆とも言える今回のスキャンダルに、ファンでなくとも多くの人が驚きを隠せないのである。 チョン・ウソンを語る時に、韓国ではトップ俳優という地位と共に、「左派」「プロパガンダ俳優」として見る人も多いことは指摘しておきたい。前述の映画「ソウルの春」は、韓国で民主化の機運が高まっていく中、軍部内での対立から起こった「粛軍クーデター」を題材にした作品である。フィクションという断りがありながらも、チョン・ドファンとおぼしき人物は実に悪人として描かれ、この映画の中でチョン・ウソンは敵対する少将の役を熱演している。この他にも韓国現代史を扱った作品でたびたび主演し、その多くが右派政権を批判的に描いたものとなっている。 また、芸能活動外でも、過去に起きたセウォル号沈没事故や、梨泰院雑踏事故など、韓国社会に深い悲しみを与えた大きな事故について積極的に発言を重ね、はばかることなく政府を批判してきた。チョン・ウソンが「左派」と見られているのはこのためである。