市川雷蔵のきらめき 麻酔作りに執念を燃やす男演じ数々の映画賞 妻が中心の映画ながら決して影は薄くなかった 1967年、増村保造監督「華岡青洲の妻」
【映画デビュー70年 市川雷蔵のきらめき】 映画祭「市川雷蔵映画祭 刹那のきらめき」連載のトリを飾るのは「華岡青洲の妻」(1967年)。雷蔵は本作でNHK映画最優秀男優賞、キネマ旬報主演男優賞、京都市民映画祭主演男優賞を受賞している。 東宝のスター女優を連れて、バチバチ対決させた増村保造監督の円熟期を迎えた手腕もすごいし、新藤兼人のシナリオも素晴らしい。 母の於継は高峰秀子、妻の加恵は若尾文子が演じている。 妹を乳がんでむざむざと死なせてしまった無念さに震える青洲(雷蔵)が麻酔の研究に没頭していく本筋とは別に、母と妻の確執という伏線を絡めているのは現代にも通じるところ。母が息子離れできていないという単純な話ではない。献身的な美談ではなく実は恐ろしい話なのだ。 映画の評には「高峰秀子のふけメークがすごくて引いた」との声も。しかし、よき義母と鬼姑の二面性がはっきり出てよかったとも。成瀬巳喜男や木下惠介に鍛えられてきた高峰だからこそ成立したといえる。 一方の若尾はチャーミングと高評価。次第に嫁がパワーアップしていくところがいい。 雷蔵の影が薄くて残念ともいわれた。タイトルからして妻の話が中心だからしかたがないとも思うが、よく考えると、当時の家中心社会において、妻や母が犠牲になっても仕方がないという冷徹な当主の位置を冷静に演じ、麻酔作りに執念を燃やす男。決して影が薄い存在ではない。 さて、大映の二枚看板である雷蔵と先輩の勝新太郎は何かと比較されることが多かった。 たとえば雷蔵は台本によく注文を付けた。しかし納得すると、あとは監督任せで文句ひとついわない。対して勝は、台本には注文を付けなかったが、いざクランクインすると文句たらたらで何度も撮影が止まった。これにはスタッフ全員が音を上げたという。 妻によると、死に顔を見たのは養父の市川壽海と大映社長の永田雅一だけだったという。役者だけに最後まで美しいままでいたかったのだろう。=おわり (望月苑巳) 【次の連載は「輝く女2025」です】