「光る君へ」を手がけた脚本家・大石静に独占ロングインタビュー!
人間は所詮、孤独。
華やかな世界で活躍する大石だが、自身のことを孤独だと言う。 「寂しいですよ、すごく。夫を亡くして2年、いまは猫との暮らし。私、友だちはいないんですよ。知り合いはたくさんいますよ。でも友という感覚が......よくわからないです。『光る君へ』の仲間は一蓮托生で走ってきましたから、強い連帯感はあります。でも友でもない。社交的に見られがちなんですけど、知らない人だらけのパーティも苦手ですし、知り合いを増やすチャンスもあまりなく、孤独といえば孤独です。寂しさが解消できるとも思いません。人生はこういうものなんじゃないでしょうかね」 「知らなくていいコト」(20年)の第1話。ロマンス詐欺に合う、年配の茶道教室の師範が漏らした「人間は所詮、孤独ですから」という台詞とシンクロする。 「自分以外の人間に何かが起きた時、本当にわかり合う、助け合うことはできないかもしれません。でも私に吐き出したものがあるとしたら、それを聞いてあげることくらいはできるかな」
ストレスとの向き合い方。
人生はシュガーコートされたものばかりではない。しばしば試練は訪れる。それによってストレスを抱えた時、誰しもが「解消しよう」と考える。大石にはその気持ちはない。 「ストレスは解消しなくてはいけないと思いすぎると、逆にそのストレスに苛まれません? ストレスは溜まって当然と思ったほうが楽だし、しみじみと寂しさを味わうのもいい。いまの私はそう思いながら晩年を生きています。もちろん仕事のオファーがあるうちは、書き続けたいと思っています」 実年齢をうかがわせない、常に精力的な彼女の口からついて出た、意外な本音に胸が詰まる。脚本界のトップに君臨しようと、多くの人から求められる立場にあっても孤独は孤独。と同時に、自分が孤独であることに誇りを持てた瞬間でもあった。あの大石静でも寂しいのだから、私たちだって孤独。そして何ら恥じることではない。
大石が考えるプロフェッショナル。
「疲れ果てて、痩せました」と、ちょっと気にしていた大石。大作を書き上げたいま、ゆっくりと大好きなドラマを鑑賞してはどうだろうと提案をした。 「ワンクール、全作品の第1話は必ず観るようにしているんです。どんな人がどんな仕事をしているのか知っておきたいので。でもハマる作品は、何年かに一作あるかなしかです。最近だと『俺の家の話』(21年)と『鎌倉殿の13人』(22年)かな? 24年9月に『光る君へ』を脱稿して、海外旅行をしようかなとか、休養の仕方をいろいろ考えてはいたんです。でもスケジュールが全然空かない。大河の評判もあって、こういった取材や番組出演や、トークショーの依頼があったり......」 脚本家の仕事といっても、実際に書くだけの仕事ではない。打ち合わせ、企画、取材、執筆、原稿修正にプロモーションとめまぐるしく工程が続いていく。むしろ執筆以外の連続。その工程に好き嫌いはないそうだ。 「全部やってこそ、プロフェッショナルでしょう。プロモーションが大変でも、ドラマが盛り上がったほうがいいですからね、当然やりますよ」 そういう彼女には25年の新作の脚本執筆が待っている。 「大河で晩年の能力をあまりにも使い果たしてしまい、とにかく頭を休めようと、脱稿してから3日間、自宅でぼーっとしていたんですよ。でもすぐに飽きてしまい『つまらない!』と思ってしまいました。久しぶりに映画を見たんですけど『私ならこのシーンはこうする』とか『このシーンの魅せ方はいいな』なんて、ずーっと考えちゃって。頭を休ませるのもいいけど、やっぱりおもしろくはない。だからもう次の作品の取材を始めています」 最後にこのインタビューを進めるうえで、彼女について、さまざまな資料を読み込んだことを伝えた。そして格好のいい、エネルギッシュな大石静の生き様は、ぜひいつかドラマ化して映像で見たいとも。そんな願望に、彼女は即座に答えた。 「そんなダサいことやりたくないです(笑)。私は裏方ですし、自分の生い立ちなんか、ドラマで見たくもないです。小出しに自分のドキュメンタリーはやりましたし......。たとえば朝ドラ『オードリー』(00年)のヒロインには、英語でしゃべる日本人の父親と、ふたり母親がいますが、それは私の育った境遇に似ています。先ほども言いましたが、ひとつの作品にひとつ、私らしい台詞があればいい。そんなふうに何気なく、自分らしさが出ていればそれで十分です」 私たちが大石静の新作を堪能できる日々は、まだまだ続くのである。
Shizuka Oishi/脚本家 1951年、東京都生まれ。86年にドラマ「水曜日の恋人たち見合いの傾向と対策」でデビュー後、現在まで連続ドラマの脚本を主に執筆。代表作に「ふたりっ子」(96年)、「セカンド バージン」(2010年)、「家売るオンナ」(16年)、「光る君へ」(24年)など多数ある。