ベリンガムら退団も…ドルトムントCL快進撃なぜ起きた? 下馬評覆したドイツ名門の補強哲学【コラム】
ファンによる強力なあと押しも追い風に
なによりクラブへのアイデンティティーをもってチームとしての成熟さを大事にしようとした。ホームに集う8万人以上のファンの声援を力にできる選手であり、チームになるようにと取り組み続けた。 ズーレはコンディション調整のミス、ベンゼバイニは負傷で確かな戦力とはなれなかったし、クラブの象徴でもあったマルコ・ロイスの起用法でほかにやりようがあった点は指摘せざるを得ない。ただ例えば、シャビツァーやフュルクルクは試合を重ねるごとにパフォーマンスレベルを向上させ、CL準々決勝のアトレティコ・マドリード戦、準決勝のパリ・サンジェルマン(パリSG)戦で大活躍を見せたことは、テルジッチやケールによる取り組みの成果でもある。 パリSGとのファーストレグで決勝点を挙げたフュルクルクは試合後のミックスゾーンで、ファンへの感謝を言葉にした。 「こんなビッグゲームをこのスタジアムでできた。試合前からファンの力を感じていたよ。難しい時に僕らの身体を動かしてくれた。スタジアムすべてが黄色で、みんなが大きな声でサポートしてくれて。特別なゲーム、特別な夜になった」 GKコベルはクラブ全体で掴んだ勝利だということを強調していた。 「PSGは信じられないほど素晴らしいチームで、信じられないほどすごいクオリティーを持った選手がいる。コレクティブな守備は絶対条件。カリム(アディエミ)もジェイドン(サンチョ)が何度も戻ってチームを助け、相手と2対1の状況を作り出し続けた。何度か突破を許して、いいチャンスを作られたけど、幸運もあって僕らは守り切ることができた」 今季のリーグでは5位で終わったように、まだそれぞれの大会に応じたチーム作りという点で改善の余地はある。それでも現段階でCL決勝に進出したことは大きな意味がある。ここからこれをベースにどのように構築していくかが問われるだろう。 [著者プロフィール] 中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。
中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano