「海に眠るダイヤモンド」「スロウトレイン」…向田邦子さんの“系譜”受け継ぐ野木亜紀子氏の作品群
ともに社会派の流れ
一方、野木氏は1996年に日本映画学校(現・日本映画大)を卒業後、脚本家になる前はドキュメンタリー番組の制作にかかわっていた。こちらも社会派作品に強いわけだ。 TBS「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)や同「重版出来!」(同)などコメディタッチの作品を次々と成功させた一方、NHK「フェイクニュース」(2018年)など社会派作品の秀作も数多い。 コミカル色でコーティングされていたが、TBS「MIU404」(2020年)も社会派色が色濃かった。ヤクザとは異なる裏社会問題などが描かれた。今日を予言していた。 野木氏の社会派作品の近作は2023年にWOWOWで放送された「連続ドラマW フェンス」。野木氏がテーマに選んだのは沖縄で、過重な米軍基地負担問題、米兵による性的暴行問題などを描いた。野木氏は執筆のため、100人以上に取材したという。 フェンスは直接的には米軍基地を覆う金網を指したが、人種とジェンダーによる壁、世代間ギャップなども意味していた。圧巻の仕上がりで、芸術選奨の文部科学大臣賞など権威あるドラマ賞を総ナメにした。 1985年から2001年までの17年間、TBSは向田さんの小説やエッセーを原作とする「向田邦子新春シリーズ」を放送していた。惜しまれながら終了したが、今度は野木作品を正月の定番にすることを望む声が高まるのではないか。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
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