パンダジャーナリスト中川美帆さんに聞くパンダの疑問
世界のパンダ事情は?
サッカーのワールドカップ(W杯)で盛り上がるカタールへ2022年10月、中国から2頭のジャイアントパンダがやって来ました。中東に初めて来たパンダです。2頭は検疫を経て、W杯開幕目前の11月17日から一般公開されています。 世界で飼育されているパンダは600頭以上。このうち中国本土以外では、2022年11月末時点で22カ国・地域(香港、マカオ、台湾)に約80頭のパンダが暮らしています。最も多い国は、中国を除けば日本で13頭、次がアメリカで9頭です(日本の13頭のうち4頭は2023年2月~3月上旬に中国へ行く予定)。2022年は、中国本土以外ではメキシコのシュアンシュアン(双双)、香港のアンアン(安安)、台湾のトアントアン(団団)が死にました。シュアンシュアンは、2003年12月~2005年9月に上野動物園で暮らしていたパンダです。 中国国外にいるパンダは現在、メキシコのシンシン(欣欣)を除き、中国から貸し出されています。かつては無償で贈られていましたが、1984年にワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)のパンダの規制区分が変わり、パンダの商業目的の国際取引が原則禁止されて貸与となりました。シンシンは中国から贈与されたパンダから生まれたので、メキシコに所有権があります。 中国が国外にパンダを貸し出すのは繁殖研究が主な目的。さまざまな国・地域の専門家による研究の進展が期待されます。加えて、もし危険な感染症などが流行した場合、飼育地を世界に分散させておけば、絶滅のリスクを減らせるというメリットもあります。繁殖研究ができるように、中国国外へは雄と雌の計2頭を送るのが一般的。2016年は韓国、2017年はドイツとインドネシアとオランダ、2018年はフィンランド、2019年はデンマークとロシア、2022年はカタールへ、それぞれ2頭のパンダが来ました。 パンダの渡航は政治・経済的な目的をはらむこともあります。例えば、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は、2019年にモスクワ動物園で一緒にパンダを観覧。当時の両国の友好関係を国際社会に印象づけました。また、カタールは、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に協力しています。中国は中東諸国との関係を強めていて、パンダ貸与はその一環との見方もあります。 パンダの存在が世界に知られたのは約150年前。中国で布教活動をしていたフランスの神父が1869年に民家でパンダの毛皮を見たのがきっかけです。以来、パンダは世界の多くの人を魅了してきました。密猟や環境破壊で野生のパンダが激減した時期を乗り越えても、今なお絶滅の危険があるなか、世界が協力してパンダを守る取り組みが進められています。
中川美帆