角野栄子の名言「『終わりの扉』は決してない」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。『魔女の宅急便』や「おばけのアッチ」シリーズを生み出した角野栄子が綴る、「想像力」という魔法とは? 【フォトギャラリーを見る】 「終わりの扉」は決してない 小さな魔法使いの少女が、すごく怖い思いをしながらも勇気を振り絞って親から独り立ちし、ほうきに乗って住んでいた町を離れて一人前の魔女になる。角野栄子が描く『魔女の宅急便』の本を読んだり、映画を見たりして物語に触れた方は、一人の少女が抱えるドキドキをまるで自分のことのように体験しただろう。 角野栄子が描く物語は、心地よい音とリズムに言葉を乗せ、私たちを別の世界へと連れていってくれる。そして、日常では出会うことのない、楽しかったり、ハラハラしたり、悲しかったり、という体験をして、また日常の世界へと連れ戻す。 物語を想像することは、角野が幼少期に生み出した悲しみの乗り越え方でもある。 5歳で母をなくした角野は、いつも泣いていた。自分が一番大切にしている存在が、ふっと消えてしまうのではないか、そんな不安にかられて泣いていた。少女は頭の中で、家出をしてみなしごとなるが親切なお金持ちに拾われてその家の子になり、「二十四色のクレヨン」と「うぐいす色のカステラ」をもらいハッピーになる、というような家出物語を描く。すると自然と涙が止まっていたのだという。家を出て、誰かと会い、身分が変わって、贈り物をもらうという話、要は自分の運命が自らの行動で劇的に変わるという物語を、繰り返し何度も想像した。物語は、角野にとって深い悲しみを乗り越える薬のようなものだったのだ。 そして、角野は『魔女の宅急便』シリーズは6冊。番外編も含めると9冊をはじめ、『ズボン船長さんの話』「おばけのアッチ」シリーズなどたくさんの物語を生み出し、多くのこわがりな子どもたちを扉の外へと連れていってくれる。 面白い世界に出会いたいとき、また不安でたまらないとき、物語はまちがいなく、力を貸してくれる。扉をあけて、物語の世界を歩き、やがて物語が終わっても、読んだ人の心の中で、その先の扉がまた開く。それは物語の扉にかぎらない。想像する心があれば、もう開かないと思っても、開かない扉はない。「終わりの扉」は決してないのだ。
かどの・えいこ
1970年『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で作家デビュー。「魔女の宅急便」「アッチ、コッチ、ソッチの小さなおばけ」など著作多数。2023年11月、東京都江戸川区に〈角野栄子児童文学館〉を開館した。
photo_Yuki Sonoyama text_Keiko Kamijo illustration_Yoshifumi ...