「君が淹れてくれるコーヒーは…」自暴自棄の球児の人生変えた魔法の言葉 高校野球の監督からプロ野球4軍監督へ転身、大越基さんが大切にする愛情
コーヒーの世界に足を踏み入れるきっかけは、早鞆高(山口県)野球部時代にかけられた「魔法の言葉」だった。 ■大越監督に美味しいコーヒーを淹れたマネジャー時代【写真】 自家焙煎(ばいせん)の珈琲屋「untitled coffee(アンタイトルドコーヒー)」を営む末永忠士さん(26)=同県美祢市=は、厳しい練習に付いていけず、入部早々にマネジャーへ転身した。やりがいを見つけられず、他の部員ともうまく心を通わせられなかった。「俺は要らない人間なんだ」と自暴自棄になりかけた。
てっきり怒られると…
そんな1年生の夏、練習中にグラウンドで当時の監督から手招きされた。てっきり怒られると覚悟していたところ、1杯のアイスコーヒーを褒められた。「君が淹(い)れてくれるコーヒーは歴代のマネジャーで一番うまいな」 末永さんにストレートな言葉をかけたのは、今夏限りで同校の監督を退任した大越基さん(53)だった。年明けからプロ野球、福岡ソフトバンクホークスの4軍監督に就任する。
引退後に教員免許取得
大越さんは1989年夏の甲子園で、仙台育英高(宮城県)のエースとして準優勝した。ドラフト1位で入ったダイエー(現ソフトバンク)では投手で羽ばたけず、途中で野手に転向。日本一を経験した一方で故障にも苦しんだ。 「優勝の喜びよりも、負けや失敗の方が印象に残っています」と振り返る。「でも人間は、そこから何かを得ることができる」との確信もあった。 2003年限りで現役を引退してからも、頭から野球が離れなかった。大学に通って教員免許を取得し、早鞆高で教壇に立つ傍ら監督になった。 部員や生徒との向き合い方には悩んだ。「叱った子が明日学校に来なかったら、などと心配でした。子どもの人生を変える可能性がある仕事。判断や伝え方を間違えると…。その怖さがずっとありました」 4軍は体力強化など実戦に臨む前段階の技量や、プロとしての心構えを身に付ける場。20歳前後の選手が多く、高校野球の指導に長く携わった大越さんは適任と判断され、招聘(しょうへい)されたのだろう。 「言霊って、本当にあると思います。愛情を持って接し、言葉で選手をいい方向へ導きたい」。22年ぶりに古巣のユニホームに袖を通す喜びよりも、選手やその家族に対する責任感で、大越さんの胸はいっぱいだ。