こんなはずじゃなかった…親の死後、「自宅の売却」に追い込まれてしまう人に共通していること
「相続」は誰もが避けては通れない問題でしょう。特に、高齢の親を持つ子どもにとっては喫緊の課題となります。 【マンガ】夫の死後、5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からのお知らせ 相続人となる兄弟が多くいる場合、遺産分割に関しては遺言書が最優先となりますが、そうスムーズにはいかないケースも散見されます。夢相続を運営する、相続実務士の曽根恵子さんが実例をもとに解説します。
遺言書があってもトラブルに……
相続の手続きでは、遺言書があれば最優先となり、相続人間で遺産分割協議をしなくてもよくなります。ご本人の意思により、遺言書を残される方は多くなりましたが、遺言書があってもトラブルになるケースも増えています。特に「遺留分」を侵害している場合では、当然の権利として遺留分侵害請求をされる方も増えています。 夢相続では、公正証書遺言の証人業務を受けて遺言書作りをサポートしていますので、遺言者が亡くなった時に手続きをサポートします。また、遺言書作りはサポートしていなくても、相続になったときに遺言書に基づいての手続きをサポートすることもありますので、相続のときにどうなったかを知る機会もあります。 ご本人の意思を実現するための遺言書で、相続人に配慮しながら作成されたもので、遺言書があってよかったということが大半ではありますが、中には遺言書があって遺留分請求をされた事例もあります。そうした遺言書にはたいてい「私の意思を汲み取って、きょうだい仲良く。遺留分請求はしないで」と記載してあるのです。けれども、そうしたメッセージは響かず、当然のごとく遺留分請求された事例はいくつもありますので、その一部を紹介しましょう。
【1】Sさんの場合…残してと言われていた自宅を売却するしかなかった
◇長女家族が両親と同居してきた Sさん(60代女性)は3姉妹の長女。婿養子の条件で結婚した夫と、両親とで、ずっと実家住まいをしてきました。妹たちはふたりとも電車で30分程度のところに嫁ぎましたので、何かにつけ実家に顔を出していました。 けれども母親が先に亡くなり、父親だけになったころからは、厳格な父親を煙たく思っていたのか、次第に来る頻度が減り、父親の老後の世話はSさんが一手に引き受ける形となりました。病院や買い物は夫や子供たちの協力も得て、ほとんどが長女家族で担当してきたのです。 ◇公正証書遺言で不動産は同居する長女夫婦に相続させるとした 父親が祖父から相続した当時は、家督相続の風習が残っている時代で、同居する長男である父親が当然のごとく相続できたのでした。家を離れた弟や妹からはハンコ代を払って相続手続きに協力してもらえたのですが、それでも多少の不服は父親の耳に入っり、苦労もあったようです。そうした思いをさせたくないことや、また家は同居する長女夫婦が相続し守ってもらいたいという思いもありました。当社で証人となり、公正証書遺言書作りのサポートをさせて頂きました。それから10年が経ち、Sさんの父親は90代で亡くなったのですが、公正証書遺言によってスムーズな手続きができ、小規模宅地等の特例により、相続税もかかりませんでした。 ところが、1周忌がすぎたあと、案の定、妹たちから遺留分請求の通知が届いたのでどうすればいいかというご相談で来られたのです。 公正証書遺言は、父親の強い意思で、「自宅の土地、建物を含めた財産の全部を長女と養子の長女の夫に相続させる。」とされていました。父親の遺言書には付言事項もあり、「長年同居し、面倒を看てもらった長女夫婦に感謝していること、先代が買って苦労して守ってきた土地は売ることなく二人で維持してもらいたい。次女、三女は父親の意思を理解して遺留分は請求しないように」と書かれていました。けれどもその気持ちは通じなかったようで、弁護士を通じて、遺留分侵害額請求通知が届いたということです。