ルイス・コールが力説、先鋭オーケストラと奏でる「究極のリアルサウンド」と実験の裏側
ドラム録音の裏話、ルイスならではの遊び心
―オーケストラは広い場所で一緒に録音することが多いので、楽器によってはオーケストラと一緒に演奏する際、普段通りの大きい音量を出せないケースもありますよね。繊細に鳴らさなければいけない生の楽器と、エレクトロニックな楽器を組み合わせて録音するのは尚更難しいはずです。 ルイス:そうだね。基本的には、不可能なことだよ。そういうサイズ感の部屋でドラムをプレイしたら、全然良い音が録れないから。クラシックのレコーディングの時は、通常はたとえば弦楽器のセクションを録る時にはマイクを離れたところに置いて、部屋の空気音も一緒に録音することで美しい響きになるんだけど、今回はそれができないわけだよ。 ーそうなりますよね。 ルイス:それで、それぞれのバイオリンに小さなマイクを装着することで、バイオリンの音にドラムの音がかぶらないようにしたんだ。そうすることで、ひとつの弦が奏でるひとつひとつの音を拾うことができた。すべての弦楽器に小さなマイクを装着して録音した曲に、今度はリヴァーブのプラグインを用いて、偽のリヴァーブをかけたんだ。そのコンピュータで作り出したリヴァーブが良い感じのサウンドにしてくれた。すごく気に入ったね。 ーそんな工夫があったんですね。 ルイス:ドラムやベースのような音の大きな楽器から隔離して、マイクをそれぞれの楽器に付けるようなレコーディングの手法を知っていることも、メトロポールを唯一無二の存在にしている理由のひとつだね。最善の方法を彼らは知っているんだ。それと、僕はライブではマイクに向かって歌いながらドラムを演奏するんだけど、それも大きな問題だったね。それで、ボーカルは後から別録りして、オーバーダブにしたんだ。 ―今回、最も難しかったのはドラムだと思います。いつものようには録音できなかったはずですが、「これぞルイス・コール」という音色がしっかり収められている。そこも素晴らしいなと思いました。 ルイス:そう言ってもらえて良かったよ。最も重要だったのは、いつもより控えめに叩くということかな(笑)。でも実際、レコーディングの時はその方がサウンド的には良くなるんだよ。ちょっと優しめに叩いた方が音は格段に良くなる気がする。なぜかはよく分からないんだけど、スネアを思い切り叩いても実際にレコーディングしたものを聴くとそんなに大きく感じないんだよね。音が大きく聞こえるとしたら、それはマイクの性能ありきなんじゃないかと思う。よく分からないんだけどね、興味深いなっていつも思う。 もうひとつ重要なのは、僕のドラムセットを音の静かな楽器からなるべく離れたところにセッティングしたことだね。あれは良いアイデアだったな。それに、僕は歌いながら叩くから、なるべくドラミングをシンプルにしたんだ。そうすれば叩くのと歌うのを同時にすることができるから。 ―クレジットを見ると、2箇所でやったライブ録音を組み合わせていたり、そこにスタジオで録ったオーケストラの音が足されていたりします。色々な場所でレコーディングしたものに後から手を加えて、こういう形に仕上げたってことですか? ルイス:そう、ものすごい仕事量だったよ(笑)。ライブ・レコーディングとスタジオでレコーディングしたものがあって、ライブで録音したものにスタジオで録ったストリングスを乗せたりもした。それに、あれだけの人数が演奏しているから、ライブでは間違う人も当然いる。その場合も、スタジオで録音したものに差し替えることで手直しを入れたりしたんだ。2つのセッションをやったわけだから、マイクの数もものすごく多かったし、人数も多いから制作は本当に大変だった……。 ―「オーケストラル・ヒット」っていう、サンプラーによく入っているオーケストラっぽい音の定番がありますが、オーケストラル・ヒットっぽいものを本物のオーケストラに演奏させている、みたいな箇所がありませんか? ルイス:そうそう、そんな場面がいくつかあった(笑)。そういうサウンドになってるところがあるんだよね。 ―例えば「Weird Moments」とか。 ルイス:うん、間違いない(笑)。 ―そういうふざけているというか、倒錯しているアイデアって他にどんなものがありますか? ルイス:「Who Cares 2」で、オーケストラ全員がフルボリュームで入ってくる直前に、トライアングルが1回だけ鳴るんだよ(笑)。これは僕だけが楽しめる遊び心って感じだね。 ―徹底的に練習やリサーチをして、すごく真面目に作ったアルバムなのに、随所で遊び心が垣間見える。まさしくルイス・コールの音楽って感じがしますね。 ルイス:それはクールな感想だね(笑)。 --- ルイス・コール with メトロポール・オーケストラ/ジュールズ・バックリー 『nothing』 発売中
Mitsutaka Nagira