ルイス・コールが力説、先鋭オーケストラと奏でる「究極のリアルサウンド」と実験の裏側
「エレクトロニックとオーケストラの融合」を果たすための工夫
―これまでのルイスの曲は、基本的にオーケストラの各楽器の音をサンプリングして、架空のオーケストラを自分で作ったり、オーケストラくらい豊かな音をシンセサイザーを使って出したりしてきました。今回は実際に譜面を書いて、オーケストラが演奏しています。その違いってどんなものですか? ルイス:たとえ素晴らしいサンプルを使ったとしても、質の高いシンセを使ったとしても、あの人数の人たちが演奏する本物のオーケストラが生み出す息遣いや、魂や感情というものはとは較べられない。人間が醸し出す小さな失敗さえそこにあって、それが生命に溢れたサウンドを生み出すし、そこから感情が溢れ出すんだ。言ってみれば、究極のリアルサウンドで、この人数で創り出すサウンドは他のどんなものとも較べられないよ。それが僕にとっては最高だった。 ―スコアを書くことについてはどうでしたか? ルイス:そこはより集中して真剣に取り組まなければいけない部分だったね。キーボードで弦楽器の音を出すのとは訳が違うから。「どの音をどの人に弾いてもらおう?」ってことを考えなくちゃいけないし、それを70人に振り分けなきゃいけない。脳みその全然違う部分を使う作業だったよ。このコードを、このメロディを、このパートをどういう風に振り分けたいか、本当にたくさん考えた。でも、どのミュージシャンにどのパートを振り分けるかを考えることさえ、クリエイティビティを刺激してくれたから、楽しい挑戦だったんだ ―あなたは以前から変わったハーモニーを駆使してきましたが、これまでは自分の手の延長にある使い慣れた楽器で作ってきたわけですよね。それを改めてひとつひとつの楽器に振り分けていくというのはどんな作業でしたか? ルイス:たしかに、僕が演奏するのに慣れていない楽器がほとんどだったけど、この20年間、たくさんのオーケストラ音楽を聴いてきたから「こういうサウンドは管楽器で表現するのがいいな」とか「このサウンドはクラリネット隊が鳴らすといいな」「これはフルート向きだなとか」「ここは弦楽器に合っている」とか、そういう考え方をすることに慣れていたんだ。色々なものをたくさん聴いてきたデータベースが活きたと思う。 ーなるほど。今回は相当細かく作り込むことになったんじゃないですか? ルイス:僕はクラシック音楽も大好きだし、古い音楽も大好きだけど、一方でドラムも好きだし速い曲を演奏するのも好きなんだ。グルーヴのあるものもファンクも好きだよ。だから、こういう自分が大好きなものを全部取り込んだ、新しいサウンドを創りたかったんだ。例えば1曲目なんかは分かりやすく古い曲調だし、そういうサウンドにしたかったんだけど、他の曲については、わずかな隙間があると思う。これまでに誰もやったことのない「ハードなグルーヴ+オーケストラ・サウンド」に存在する小さな隙間。僕が心から聴いてみたいと思っている音楽がこの隙間を埋めるんじゃないかと思って創り始めたんだ。そういう野心とか、ヴィジョンが先にあって、細かなディテイルは後からついてきたように思う。その境地に達してから、具体的なディテイルを作っていったんだ ―あなたの音楽にとってエレクトロニックな楽器はすごく重要ですよね。そして、今作はエレクトロニックな楽器とオーケストラとの組み合わせがすごく上手くいっているアルバムだと思います。その部分はどうでした? ルイス:それこそが個人的に聴いてみたいものだったんだ。そういうものはこれまでに余りなかったと思うし、上手くやりこなしているものもなかったと思うから。だから、僕が一役買おうと思ったんだよ(笑)。そういう音楽があったらいいのになーって心から思っていたからね。スピード感のあるハウスのグルーヴとオーケストラを組み合わせた音楽を聴くことが出来たら最高なのにって。オーケストラがそこに幅を持たせてくれて、深みと壮大なスケールを与えてくれるんじゃないか、僕はそういうものに挑戦してみたかったんだ。 ーその手応えについては? ルイス:結果的に出来上がったものにはとても満足しているけど、作っている最中は実験だった。本当に機能するのか確証はなかったからね。書いてみたものの、これでは機能しないと思って捨てたものもあるよ。キープしたものは実際にとても上手い具合に機能したけど、僕自身がはなからそれを期待していたものばかりではないんだ。なんにせよ、なんらかの形でエレクトロニックとオーケストラが融合したサウンドがこの世に存在してくれることになればいいなくらいに思っていたんだよ。