夢を強調しすぎる「キャリア教育」から脱すべき訳 職場体験だけに頼らない「第3段階の指導」へ
家庭のコミュニケーションでも、子どもの意識は変えられる
日常の中に自然に溶け込むキャリア教育とはどんなものか。 「例えばクラス内の係や委員会。それぞれが役割をこなすことで成り立っているのは大人の社会と同じであり、これを理解することは立派なキャリア教育です。また、国語の授業なら登場人物を取り上げて『こういう生き方はどう思う?』と尋ねたり、理科なら『この知識がコンピューターやゲームなどのものづくりに生かされている』と付け加えたりするだけでいい。子どもたちは『なるほど、そういう将来もあるのか』と気づくでしょう」 学んだことが仕事につながると教えることは、子どもたちの学びの動機づけにもなる。彼らの「なんでこんなこと覚えなきゃいけないの?」という不満も解消されれば一挙両得だ。児美川氏は、こうした日常的なキャリア教育が実践できれば、職場見学や特別なイベントなどは減らしてもいいと助言する。また、現場の教員には世代ごとの温度差があると考えており、その改善に自身が果たすべき責任も感じている。 「自身がキャリア教育を受けていないベテラン世代の教員からは、苦労の声を聞くこともあります。しかしこれだけ変化の激しい社会では、教員に求められることが変わるのも仕方ないのではないでしょうか。また、若手教員は自らも過去のキャリア教育を受けているがゆえに、逆に指導内容に誤解を抱いてしまっていることも。私も研究者の責務として、こうした先生方によりよい指導方法を伝えていきたいと思っています」 現状については「学校が抱え込みすぎている」と語る同氏。学校が安心して手を放すためには、地域や家庭の力も発揮されるべきだと言う。 「家で子どもに自分の仕事について話をする大人は少ないのではないでしょうか。今日は会社でこんなことがあったんだよ、今はこういう仕事をしているんだよ、なんて伝えるだけでも、子どもの意識は大きく変わるはず。学校での1対40のキャリア教育だけでなく、家での1対1でのおしゃべりの効果もぜひ活かしてほしいと思います」