夢を強調しすぎる「キャリア教育」から脱すべき訳 職場体験だけに頼らない「第3段階の指導」へ
一直線に進めないときにどうするか、その力を育てたい
表面的な職業観を超えて、現在のキャリア教育で子どもたちに伝えるべきことは。児美川氏は2つのポイントを挙げた。 「まず1つ目は『夢は全員が実現できるわけではない』ということ。だから夢を持つなというのではなく、できなかったときにどうするかを考えようということです。進学や就職の際には現実を見ろと言うのに、その前の段階の教育では『夢』を強調しすぎている。これは日本のキャリア教育の構造的矛盾です」 大人はどうしても一直線のレールに乗せたがるが、実際の人生はジグザグと蛇行するものだ。まっすぐ行くことだけを目指すのではなく、そうできないときにも前に進む力をつけるのがキャリア教育であるべきだ。そのために有効な2つ目のポイントが、「『やりたい』の根っこを掘ること」だと同氏は続ける。 「夢が見つかった、なりたい職業名が出てきたからといってそこで終わりにするのではなく、なぜそれをやりたいのかの根拠を一緒に考えることです。ゲームを作りたいという夢の根っこにあるものが『ものづくり』への思いだとしたら、自動車や食品業界でもいいかもしれない。それがわかれば実現できることの選択肢が増え、まっすぐ行けないときのリカバリーもできるようになるはずです」 無理に1つに絞る必要はなく、やりたいことは2、3個あってもいい。児美川氏がそう語るのは、就職活動で苦労する大学生を間近に見ているからだ。 「自己分析と業界研究を経て『自分にはこれが向いている』と1つのジャンルに絞って活動する学生がいますが、何社受けても落ちるのなら、採用担当者に向いていないと判断されているということです。こういうときに第2、第3の方向に変えられる学生は、その途端にパッと内定が出たりします」 賛否あるキャリア・パスポートについても、大学教員の視点から語ってくれた。公立の小中学校では教育委員会の介在によって連携が可能だが、高校へ情報を手渡すには行政で仕組みを整えるしかない。さらに大きな課題は、現状では大学との連携が取れない点だ。 「キャリア・パスポートは入試では使用しない約束になっていますが、同様のものを生徒自身が提出する形にすれば有効だと思います。総合型選抜や推薦入試が増えている今、キャリア教育の取り組みは、本人が自分の過去を振り返り、将来を見通すのにも役に立つはず。高校生にもなれば自分で提出物は準備できるはずで、教員が手間を増やして用意する必要もないでしょう」 10年、20年前に比べて、児美川氏の下にやってくる新入生の像は明らかに変わっているそうだ。キャリアについてまったく考えていない学生はほぼいない。探究の取り組みや入試方法の変化によるものか、ディスカッションやグループワークにも慣れていて、自分の意見を言える学生も増えた。「大学で教えていても、キャリア教育の成果は確実に出ていると実感しています。苦労もあると思いますが、先生方には自信を持って取り組んでほしい」とエールを送った。 (文:鈴木絢子、注記のない写真:ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部