夢を強調しすぎる「キャリア教育」から脱すべき訳 職場体験だけに頼らない「第3段階の指導」へ
キャリア教育開始から20年、3つの段階と2つの課題とは
中央教育審議会で「キャリア教育」が提唱されたのは1999年。そこから20年以上が経ち、学校ではさまざまな取り組みが行われてきた。自身やわが子の「職場見学」などが記憶にある人も多いだろう。実効性のわかりにくい指導内容であること、理想を実現するには小学校から大学までの連携が欠かせないことなどから、「扱いきれない」という教員の声も聞かれる。この分野の第一人者である児美川孝一郎氏は「キャリア教育は新たな段階に入った」とし、認識のアップデートが必要だと言う。 【写真】「キャリア教育といえば職場見学をイメージする方も多いが、こうした特別な行事での学習は必須ではない」と話す法政大学の児美川氏 日本で最初の「キャリアデザイン学部」は2003年に法政大学で誕生した。児美川孝一郎氏は立ち上げからこの学部に携わり、20年にわたってキャリア教育の研究をしてきた第一人者だ。同分野の光も影も見てきた同氏によると、キャリア教育の歩みは、次の3つの段階に分けることができると言う。 「2004年から文部科学省の予算がついて、学校でのキャリア教育が始まりました。背景には氷河期世代やフリーターなどの就職難があり、『勤労観』や『職業観』を説くことで、若い人の就職を目的にした教育が行われた。言い方はよくありませんが、この時期の取り組みはいわば対症療法で、キャリアについての包括的な教育ではありませんでした」 その反省を受けて、キャリア教育は2011年ごろから次の段階に移っていく。 「社会に出ることを『働く』という観点のみで考えるのではなく、市民として、地域住民として生きるための幅広いキャリア発達が考慮されるようになりました。これが第2段階です。近年はさらに第3段階として、学校で学ぶこととキャリアとの関係が意識され始めました。2020年度からの新学習指導要領をきっかけに、教科の勉強と自分の将来がつながっているのだという教育にシフトチェンジしてきています」 試行錯誤しながら変遷をたどるキャリア教育だが、今も課題は少なくないと児美川氏は見ている。1つ目の課題は、初期の「勤労観」を謳う取り組みの残像があることだ。教員の中には「社会人を授業に登場させなければいけない」「実際の仕事を意識させなければ」といった旧来の認識が残っていると指摘する。2つ目の課題は「イベント主義」だと言う。 「キャリア教育といえば職場見学をイメージする方も多いと思いますが、こうした特別な行事での学習は必須ではありません。特別なことをやらなきゃ、と肩肘を張ると、ただでさえ忙しい先生方は時間が足りなくなってしまう。そうではなく、日常の中に自然に溶け込ませて実施することこそが、今のキャリア教育に求められることだと考えています」 3つ目の課題にもなりかねない「教員の多忙」を、この「イベント主義」からの脱却で併せて改善できると語る。