「電力を制約すべきでない」 “国産”生成AIの開発活発化 KDDIやソフトバンクなど 利用拡大で電力需要も増加、対策急務に
生成AIを動かす基盤となる大規模言語モデル(LLM)をめぐる国内企業の動きが活発化している。今月にはKDDIやソフトバンク、パナソニックが矢継ぎ早に新たな取り組みを発表。一方で、懸念されるのが電力需要の爆発的な増加だ。2040年のトラフィック(情報量)は20年から最大で348倍に達するとの予測がある上、数兆から数十兆パラメーターの超大規模基盤モデルも今後、登場が想定される。生成AIの拡大を支えるためのデータセンター建設が相次いでおり、専門家は「電力制約のため、生成AIの利活用が阻害される事態は避けるべき」と指摘している。 【関連写真】電力制約下での生成AI利活用に関する3つのシナリオ 「ChatGPTやGemini、Claudeと並ぶ新たな選択肢としてELYZA LLMを広げていきたい」。6月25日に行われた記者説明会で、LLMの最新モデルを披露した、東京大学発のスタートアップ「ELYZA(イライザ)」の曽根岡侑也CEOはこう強調した。 同社は、米メタの「Llama3」をベースに、日本語による執筆や情報抽出の性能に優れた国産モデルを構築。性能の指標となるパラメーターは700億ながら、1兆パラメーターともいわれる「GPT-4」を、日本語を対象とした2つの性能評価指標では上回ったのが売りだ。 イライザの親会社であるKDDIは今月1日から、情報通信研究機構(NICT)とLLMの共同研究を始めた。NICTが蓄積してきた600億以上のウェブデータを活用し、生成AIが事実と異なる内容を生成する「ハルシネーション」を抑制する技術や、画像や図表、符号なども生成するマルチモーダルAIを応用した技術などを研究開発する。 一方、ソフトバンクは、生成AIの商用サービス化に向けて昨年7月に設立した準備会社を「Gen-AX(ジェナックス)」として正式に立ち上げ、今月1日から本格稼働させた。生成AIを活用したコンタクトセンターの自動応対システムの提供に加えて、企業のAI活用を支援するコンサルティングサービスも展開する予定。 グループ企業の業務向けに特化したLLM開発を進めるのがパナソニックホールディングス(HD)だ。今月2日には、自然言語処理技術を活用したAIサービスを提供するスタートアップ「ストックマーク」と協業し、パナソニックグループ専用のLLMを開発すると発表。ストックマークが開発したLLMに社内データを追加学習させ、約1000億パラメーターの独自LLMを構築する狙いだ。 電力需要が爆発的に増加 国内の生成AI市場の拡大と合わせて、大量のデータ処理が必要なLLMの学習に使われるGPU(画像処理半導体)搭載の高性能サーバーも増加している。大量のサーバーを集積するデータセンターも東京、大阪を中心に相次ぎ建設されており、電力効率化は急務となっている。 三菱総合研究所がまとめた生成AI普及による電力需要の将来シナリオによると、40年のトラフィック(情報量)は20年から最大で348倍に達すると予測。今後登場が想定される数兆から数十兆パラメーターの超大規模基盤モデルを全てのユースケースで活用した場合と、数百億パラメーターの小規模基盤モデルを利用した場合とを比べると、計算量は90倍の差が生じることが見込まれるという。 三菱総研政策・経済センターの西角直樹主席研究員は「集積化による半導体チップの電力効率は限界を迎えつつある中、先端パッケージングや光電融合といった新技術の実現が電力効率改善を左右する」と指摘する。 こうした予測を踏まえ、電力制約下での生成AI利活用について3つのシナリオを想定。①超大規模基盤モデルを利用する「計算量爆発シナリオ」②多様なチップを組み合わせ用途に応じて使い分ける「適材適所シナリオ」③小規模基盤モデルを使う「省電力優先シナリオ」――の3タイプだ。 計算量爆発シナリオでは、計算量が20年比で十数万倍に激増し、資金力を持つ米大手など巨大ITの市場支配力が膨らみ、海外企業への日本からの支払いが増大するデジタル赤字で国際収支が悪化すると展望。適材適所シナリオでは、計算量は1万倍以内にとどまり生成AIの担い手が多様化するとともに、国や地域のローカルAIや産業特化型AIも活躍するとみる。 省電力優先シナリオでは、光電融合実現で消費電力は2倍強に抑制され、信頼性の高い良質なデータを扱える組織が生成AI市場での競争優位を獲得するとの見方だ。 西角氏は「高速低遅延で安価なネットワークの普及によって海外や地方にデータセンターを分散でき、生成AIの処理位置の最適化で電力ひっ迫を緩和できる」と述べた上で、「電力制約のため生成AIの利活用が阻害される事態は避けるべき。ICTや電力供給などの対策を図ることが国際競争力の強化に寄与する」と訴えた。
電波新聞社 報道本部