【昼酒御免!】爽快な香りに包まれるジンフィズ 穏やかな散歩日和の締めは「吉祥寺」の名バーで
おいおい、気付けば7時間飲んでるぜ
2杯目はサイドカー。ブランデーとホワイトキュラソー(オレンジの香りのするリキュール)をシェークしたカクテル。 これは、ヤバいんだな。60歳を超えても、一口飲んでヤバいと思う。若い人の言う、とてもいい意味でのヤバいではなくて、危ういという原義のヤバい。飲み口が良すぎて、スルスルっと飲めてしまう。もっというと、カクテルグラスではなくてタンブラーに並々注がれても、ぐいぐいっとやってしまいそうな、うまさなのだ。もちろんこれが、WOODYのサイドカーだからなのだがね……。 どうにも調子が出てきて、私はサイドカーをあっという間に飲んで、気がつけば、マンハッタンを頼んでいた。ライウイスキーにスイートベルモットを混ぜるこれも、サイドカーに劣らず強いカクテル。ベースになるウイスキーも、混ぜるスイートベルモットも、複数の銘柄を調整して最高を追求する田中さんの、これはおそらく、自信作なのだと思う。 なにしろ、うまい。平素、明け方まで起きていることの多い私の身体は、午後はまだ、半睡状態なのだが、こんなにうまいカクテルを3杯もひっかけると、血管は広がり、体表を覆う分厚い脂肪に血の気が差し、ガタピシ音を立てて全身の関節が滑らかな動きを取り戻す塩梅。仕上げに、こちらの特製ハイボールを1、2杯いただいて引き上げようか。 などと、思ったときだった。やあ、タケさん、来てたんですか! と言って入って来たのは常連のダイさん。年回りは一緒だが、この人はたぶん、私より飲む。見れば、ニコニコ笑っている。こういうのも誘い笑いというのか、私も知らずのうちに、ニコニコしてしまう。 で、どうなるか。あと、1杯か2杯でお終いにしようと思っていた酒は、3杯になり、4杯になり、昼酒から宵酒になったかと思ったのも束の間、気がつけば、江戸時代でいう亥の刻。今風に言うと、午後10時。おいおい、7時間飲んでるぜ! 昼酒、ほどほどにせい! というあたりで今回はお開き。外へ出ると、雨はすっかり上がっておりました。 (シリーズつづく。第1回から読む) 【プロフィール】 大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』が好評発売中。