「こんなうまいものがあるのか」…20歳の青年が、オホーツクの旅で《ホタテ貝の刺し身》に感動、その後はじめた「意外な商売」
カキが旨い季節がやってきた。 衣はカリッと身はジューシーなカキフライ、セリがたっぷり入ったカキ鍋、炊きたてのカキご飯。茹でたカキに甘味噌をつけて焼くカキ田楽もオツだ。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。レモンをちょいと絞ればなおさらよい。うーん、旨い! 【写真】これで110円とは…東京のうまい「町寿司」ネタを一挙大公開 そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く!』には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。畠山さんは「カキ養殖には、海にそそぐ川の上流の森が豊かであることが必須」と、山に植林する活動への取り組みでも知られている。 「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。 世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。これからあなたをカキの世界へ誘おう。連載第1回はフランスの河口から広葉樹の森を遡っていく。 どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。
世界旅行を夢みる少年
わたしは子どものころ、地図が好きな少年でした。小学5年生のとき、親に世界旅行の本を買ってもらってから、地図を見ては「大人になったら世界を旅してみたい」と夢みていました。 家では祖父の代から『リーダーズ・ダイジェスト』を購読していたので、三陸の田舎に住んでいるのに、海外はわりと身近だったのです。高校時代からは月刊誌『旅』を定期購読し、生き物好きの同級生とユースホステルに泊まり、鳥羽、江の島など全国の有名水族館を巡りました。横長の大型リュックを背負い、混んでいる場所ではカニのように横歩きする、いわゆるカニ族のはしりでした。 旅の楽しみといえば、地元の新鮮な幸。高校の夏休み、雑誌『旅』が企画した北海道・オホーツクへの旅に参加したわたしは、初めてホタテ貝の刺し身を食べ、「世の中にこんなうまいものがあるのか」と感動したのです。 寒い海に育つホタテ貝の本場は北海道や青森で、当時の三陸にはホタテ貝はありませんでした。三陸でホタテ貝の養殖をしたい――。カキの水あげは秋から冬で、ホタテ貝の旬は夏です。カキとホタテ貝の養殖に成功すれば、夏も冬も収入を得られます。 20歳になると、わたしは有珠湾(北海道伊達市)からホタテの稚貝をリュックで背負って輸送するようになりました。はじめはうまくいかなかったものの、3年目には輸送法も工夫してホタテ養殖は軌道に乗るようになりました。 そのころから、種ガキ(稚貝)を営業する知人の仕事の手伝いも始め、広島など全国のカキ産地を訪ねるようになったのです。 今でも机のまわりには、さまざまな地図がいっぱいです。時刻表も何冊もちらばっていて、奥さんに「古いのは捨てますから」といわれるのですが、「もうちょっと待って」と積み上げてしまっています。調べたいことがあれば、いつでもすぐ旅に出かけられるよう「準備万端怠りなし」です。