【肥満が原因の糖尿病治療】薬や食事、運動は対症療法に過ぎない 根本治療として「減量手術」が選択肢となる理由【専門医が解説】
肥満になると糖尿病や高血圧症、脂肪肝などを併発しやすくなり、生活習慣病が次々と発症する「メタボリックドミノ」が起こるケースもある。その最適な治療方法にはどのようなものがあるのか──。シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、腹腔鏡での減量手術を日本に初めて導入した四谷メディカルキューブ減量・糖尿病外科センターの笠間和典センター長に話を聞いた。【肥満が原因の糖尿病の手術治療・前編】 【グラフ】30~60代の男性肥満者の割合は30%以上 「日本人の肥満者の割合」
胃がん患者が多い日本では普及しなかった「減量手術」
肥満が万病の元であることは間違いありませんが、太っていても健康であれば無理に減量する必要はないかもしれません。しかし、糖尿病や高血圧、脂質異常症、脂肪肝などの合併症を併発している場合は「肥満症」と呼ばれる病気であり、体重を落とすことが治療の第一歩となります。 減量するためには、まず「食事」「運動」「薬物」「行動療法」などの内科治療が行なわれますが、一時的に体重が落ちてもほとんどの方がリバウンドして治療前に戻ってしまいます。 「内科治療抵抗性」と呼ばれる高度肥満患者に対する治療として、欧米では1950年代から減量代謝改善手術(以下、「減量手術」)による外科治療が行なわれています。この手術は減量効果だけでなく、肥満に関連する病気、とりわけ糖尿病に効果があることがわかっています。また、減量手術がホルモンの分泌に影響を与えるため、糖尿病が寛解するケースも報告されています。 「米国糖尿病学会(ADA)ガイドライン2017年版」では、「肥満を伴う糖尿病の治療」として、BMIのレベルに応じて外科治療を推奨する治療アルゴリズムが採用されています。日本糖尿病学会や日本肝臓学会、日本肥満学会、日本肥満治療学会においても、それぞれのガイドラインに減量手術が掲載されるようになりました。
日本で初めて実施「腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術」
「手術で糖尿病が治る」と聞くと驚く人が多いはずです。通常、肥満による糖尿病はまず内科医が診察し、血糖値を下げる内服薬と食事・運動療法の組み合わせで治療するからです。しかし、薬や食事、運動は対症療法であって、原因となる肥満症の根本治療ではありません。 減量手術は1950年代に開発され、1960年代にアメリカで「胃バイパス術」が行なわれるようになりました。その後、1995年にアメリカのポーリー博士が「胃バイパス術で糖尿病が寛解する」という論文を発表したことで、肥満を原因とした糖尿病の治療法として注目されるようになりました。 胃バイパス術とは、胃袋を上部の小さな袋と下部の大きな袋に分けて、小さい袋に小腸を直接繋げ、繋がった小腸の途中に胃の下部と十二指腸を吻合し、胆汁と膵液を流れ込むようにする方法です。一部の胃と十二指腸をバイパスすることで栄養の吸収を制限して減量するという考え方で、アメリカではこの手術が減量・糖尿病外科治療のスタンダードとして数多く実施されています。 しかし、腹部を大きく切る開腹手術だったことで、減量と糖尿病の治療効果が高いにもかかわらず日本ではほとんど行なわれませんでした。術後に胃の下部の内視鏡検査ができなくなることも、胃がん患者の多い日本では普及しなかった理由です。そんな中、私は2002年に初めて腹腔鏡を用いた「腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術」を行ないました。
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