“SNS不適切投稿”の岡口判事を「罷免」した弾劾裁判の“中身”の問題点…国会議員が「裁判官の表現の自由」を裁く危険性
「理由と結論が整合していない」
岡口氏:「弾劾裁判所の判決理由には結局、『東京高裁、東京地裁はそう言っていますよ』としか書かれておらず、『私たちはこう考えました』ということはまったく書かれていない。 しかも、判決理由の論理は完全に破綻している。 東京高裁が『刑事事件投稿』を『不法行為にあたる』と判示した理由は、『性的好奇心に訴えかけて、興味本位で刑事判決を閲読するものを誘引する意図』があったからというものだ。弾劾裁判所はそれを全否定している。 そうであれば、『東京高裁の判断はおかしい』という論理的帰結になるはずだ。 それなのに、私を罷免する最大の理由として東京高裁が『不法行為にあたる』と判示したことを挙げている。理由と結論が整合していない」
「不意打ち」の問題も
また、弾劾裁判所は、民事訴訟の一審の東京地裁判決(令和5年(2023年)1月27日)が「刑事事件投稿」を「公法上の義務に違反する」と判示したことも罷免事由の理由のひとつに挙げている(前掲【図表】参照)。 この点について、岡口氏は「防御の機会が与えられなかった」と指摘した。 岡口氏:「東京地裁が『公法上の義務に違反する』としたのは、本来書かなくてもよかったものだ。訴訟の対象ではなく、判断する必要がなく、判断してはならない事項だった。 判決でそんな判断をされるとは夢にも思っていなかったので、訴訟のなかで防御活動もしていなかった。完全に不意打ちだ」 本来、判決を導く上で重要なポイントについては、主張立証の機会が十分に保障されなければならない。この点は手続き上の問題点でもある。
「犬事件投稿」は弾劾事由にあたらないとしたが…
次に、「②犬事件投稿」に関する弾劾裁判所の事実認定においても、論理的整合性の問題が指摘される。 弾劾裁判所は、最高裁の事実認定を否定している。犬事件投稿は、以下の文章の下に、「sippo」というペット関連情報サイトの記事へのリンクを貼ったものだった。 「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3カ月くらい経って、元の飼い主が名乗り出てきて,『返してください。』え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3カ月も放置しておきながら…裁判の結果は…」 リンク先の記事は犬の所有権に関する東京高裁の判決を取り上げたものだった。 最高裁は岡口氏に対する分限裁判において、この「犬事件投稿」について、「当該訴訟の原告が訴訟を提起したことを非難しているように読める」ことを理由に「非行」にあたるとしていた。 これに対し、弾劾裁判所は「当該事件の原告による訴訟提起行為を一方的に不当とする認識又は評価を示したとまでは認められない」として、ここでも最高裁の事実認定を否定している。ところが、そのように論じておきながら、「非行」には該当するとした。 そして、そのうえで「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」ではないとし、弾劾事由にあたらないとした。 この論理構成は、「裁判官としての威信を著しく失うべき」かを判断する以前に、最高裁が示した「非行性」の論拠自体を否定していることとの整合性に問題がある。