初優勝した大関琴桜、制限時間いっぱいで鬼の形相に変貌する理由
<大相撲九州場所>◇千秋楽◇24日◇福岡国際センター 大関琴桜(27=佐渡ケ嶽)が念願の初優勝を果たした。21年ぶりの大関相星決戦となった結びの一番で、大関豊昇龍を下して14勝1敗。「琴桜」としては初代の祖父が最後に制した73年名古屋場所以来51年ぶりの優勝となった。来場所は綱とりが懸かる。 制限時間いっぱい。それまで静かな面持ちで仕切りを重ねていた琴桜が、たちまち鬼の形相へと変貌する。顔をしかめ、眉間に深いしわ。花道の方向をぎらりと凝視する。場内が一気にヒートアップする中、最後の塩が土俵にまかれる。 いつからこの“ルーティン”を行うようになったのか。本人のみならず、付け人も、父で師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)も覚えていない。琴桜本人は「意識してやりはじめたわけではないので」と説明。そのうえで開始時期については「三役になったぐらいからかな…」と、おぼろげな記憶の引き出しを開け閉めする。 仕切り制限時間は幕内4分、十両3分、幕下以下2分以内と決まっている。出世する前は、土俵に上がればすぐに心のスイッチを入れれば良かった。しかし番付が上がるにつれ、仕切り中における気持ちのコントロール方法を習得する必要があると気づいた。「ずっと力を入れていても疲れてしまうだけ。“出力”が弱くなる」。沸き立つエネルギーを取組直前まで蓄積させ、一気に放出。気迫をみなぎらせ、相手を圧倒する。 その表情には、祖父である先代からの教えもにじみ出る。幼少期に伝えられたのが「鬼になれ」という言葉。しこ名を継いだ横綱からの金言を体現する。佐渡ケ嶽親方は「あの顔になることで、スイッチが入ったんだとお客さんも盛り上がる。いいことだと思う」と解説。そして「(現役時代に)俺もすれば良かったかな」と仏のようにほほ笑んだ。【奥岡幹浩】