日清食品だけではない?!陸上実業団チームの危うい現実
以前聞いた話では、日清食品グループの選手が本社に通勤するのは週1回で、一般業務はほとんど免除される。よくいえば、「競技に集中できる環境」だった。近年は選手であってもフルタイム勤務をこなしている会社もあるが、強豪チームは9時から14時頃まで勤務して、15時頃からトレーニングというパターンが多い。仕事といっても簡単な事務作業が大半で、陸上の練習計画を立てて時間をつぶすこともある。夏季や試合前には「合宿」が組まれるため、1年の4分の1は一般職の現場にいないこともあり、責任ある仕事を任せられることは少ない。それが実業団の実情だ。 そのなかで選手たちは、どんな思いで競技を続けているのか。日清食品グループに所属する佐藤悠基は、「僕らはメディアに露出することで、会社のPRをしているわけです。ただ頑張って練習するだけではダメなんです」という話をしていた。しかし、そういう考えで、競技をしている監督・選手は多くない印象だ。 たとえば、取材を申し込んだとしても、「駅伝に集中したい」という理由で断られることがしばしばある。もっと積極的にメディア露出しないと、企業PRにならないということを分かっていないのだ。そして「実業団駅伝は箱根駅伝よりも人気がない」という現実からも目を背けている。 どんなに強くても、世間から注目されなければPRにならない。競技で結果を残して、良いイメージでメディアに露出する。会社の名前をアピールして、ブランド力を高めていく。その結果、自社の商品・製品の売り上げがアップする。 実業団に所属する選手たちは、そういう歯車のひとつにならないといけないはずだが、現実は少し違う。そもそも陸上の実業団チームは、ビジネスモデルとして成立しているとは言い難い。たとえば、プロ野球、Jリーグなどのプロは「広告料」「入場料」「物販収入」「放映料」が収益の4本柱になっている。広告料はユニフォームやシリーズの“冠料”など、入場料はホームゲームのチケット代、物販収入は関連グッズなどの売り上げ、放映料はプロ野球ならテレビ局、Jリーグは、リーグから「DAZN」のそれがまとめて入るのだ。陸上の実業団チームの場合、プロでもないため上記の収益がほとんどない。 基本的には所属企業が選手やスタッフの給料、活動費を捻出しているが、そのリターンは「企業のPR、イメージアップ」でしかない。選手14名、スタッフ4名のチームでは、18名分の給料だけでなく、合宿遠征費、治療費なども必要で、年間で億単位の“お金”が運営費としてかかる。