日清食品だけではない?!陸上実業団チームの危うい現実
日本陸上界にとって衝撃的なニュースが飛び込んできた。ニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)で優勝2回の実績を持つ日清食品グループが「駅伝撤退」を発表したのだ。9月に行われる東京五輪マラソン代表選考会(MGC)の出場権を持つ佐藤悠基と村澤明伸を除く12選手に退部を勧告。今春入社予定だった大学生2選手は内定取り消しとなり、新たな受け入れ先を探すという。 知り合いの選手にメールしたところ、「自分に合った移籍先を探したいと思います」という連絡がきたが、退部勧告を受けた選手たちは相当ショックだったことだろう。 日清食品グループ陸上競技部は1995年に創部、マラソンでは1996年アトランタ五輪の実井謙二郎、2004年アテネ五輪の諏訪利成らを輩出。ニューイヤー駅伝は2001年から10位以内をキープしていたが、昨年は15位、今年は16位と近年は苦戦していた。 同社広報部は、「これまでに実業団駅伝をはじめとした国内外の主要競技大会で活躍したほか、オリンピック選手を5名輩出するなど、陸上競技界の発展に対して一翼を担ってきました。しかしながら、発足当時とはさまざまな環境が変化してきたことから、今後は、世界を目指す選手の競技活動をサポートする体制に切り替えることとしました」と説明。低迷する駅伝を強化するのではなく、今後は部員を大幅に減らし、個人の活動をサポートしていくようだ。 正直、今回の決断には驚かされたし、関係者も同様の反応をしている。その理由として、2020年夏に東京五輪を迎えるというタイミングであること、日清食品の業績が悪化しているわけではないこと、同社が日本陸上界にとって“特別な企業”のひとつであることが挙げられるだろう。 日清食品は駅伝・マラソンの強豪チームというだけではない。同社の創業者である安藤百福が1983年に立ち上げた安藤スポーツ・食文化振興財団は、小学生の陸上全国大会である「日清食品カップ」を1985年から続けている。 2015年度からは、国際大会でメダル獲得を志す陸上競技の若手アスリートの海外挑戦、武者修行を支援するプロジェクト「安藤財団グローバルチャレンジプロジェクト」もスタートさせているのだ。さらにいうと、日清食品は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のオフィシャルパートナーを務めている。 ダイエー、日産自動車、エスビー食品など名門チームが廃部・休部するときは、会社の経営合理化が主な理由だったが、今回は少し事情が異なる。支援する方向性を変えた結果、「条件に満たない選手」へのサポートを取りやめたかたちだ。 近年は「駅伝」から撤退して、個人種目に絞って強化している企業が出てきている。 スズキは2010年度から実業団駅伝への参加を取りやめ、DeNAも2018年度からマラソン、トラックに専念している。そして日清食品グループだ。今回の“事件”は同社からの日本陸上界への問題提起と言えるのかもしれない。