奇跡の実話をもとにしたストレート&パワフルな感動作。映画『型破りな教室』
だが子どもたちが、いま自分たちが置かれた厳しい環境から抜け出すのは容易ではない。パロマが住んでいるのは廃品集積所──つまりゴミ山の中にある粗末な小屋。拾った廃品を売ってぎりぎりの生計を立てているパロマの父親は、娘の夢を現実離れしたものとしか理解できない。パロマは廃品を利用して自作したらしい望遠鏡で、国境の先の米テキサス州にあるNASAのヒューストン宇宙センターやスペースXのロケット発射場を遠く見つめるばかり。そしてパロマにほのかな恋心を抱いているニコには、不良仲間のしがらみが付きまとう。フアレス先生は「人生の行き先は自分で選ぶんだ」と諭すのだが、果たして子どもたちの運命はどうなるのか──。 ベースとなった実話は雑誌『WIRED』2013年10月号に掲載されたジャーナリスト、ジョシュア・デイヴィスの記事だ。それを2007年の長編デビュー作『Blood of My Blood』(原題『Padre Nuestro(私たちの父)』)でサンダンス映画祭審査員大賞を受賞したクリストファー・ザラ監督(1974年生まれ)が、久々の劇映画の新作となる長編第2作として映画化。デイヴィスは制作にも名を連ねている。彼らが主演に抜擢したのは、第94回の米アカデミー賞3冠に輝く『コーダ あいのうた』(2021年/監督:シアン・ヘダー)で風変わりかつ熱心な音楽教師を演じたエウヘニオ・デルベスだ。決して崇高なカリスマではなく、自身も悩み多き等身大の教育者の姿を体現することで、生々しく爽やかな説得力と感動をこの実在の役に与えた。そして何より、オーディションで選ばれた生徒役の子どもたちの顔が素晴らしい。 それまでの壊滅的な学力の状態から、クラスの中の10人が全国上位0.1%の成績に食い込んだ──という事実にも驚かされるが、この『型破りな教室』が示すのは、子どもたち並びに我々人間の「可能性」についての希望だ。良い未来を望むことすら困難な環境のもとに生まれ育っても、自分次第でそれを打破することはできる。あるいはその「可能性」を潰さずに育てる社会を作り出さねばならない。極めて真っ当で健全な理想をストレート&パワフルに描き出した本作は、この混迷の時代に、王道の自己実現の感動を熱くもたらしてくれる。 Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito