米国に好かれるソフトバンク孫正義と嫌われる日本製鉄、「交渉術」の決定的な差
● 孫氏とトランプ氏をつないだ ラスベガスの「カジノ王」の存在 さて、ここで、孫氏とトランプ氏をつないだ人物について言及しましょう。2人をつないだのは、米国きっての「カジノ王」で知られる、ラスベガス・サンズのシェルドン・アデルソン氏(21年1月に87歳で死去)と言われています。実は、孫氏とアデルソン氏は30年近く親交がある旧知の仲なのです。 ソフトバンクが世界企業へ飛躍するきっかけとなったのが、1994年の米コムデックスの買収でした。コムデックスとは、当時ラスベガスで行われていた米国最大のコンピューター見本市のこと。このコムデックスの生みの親が、アデルソン氏です。 当時、孫氏は37歳。ソフトバンクは店頭公開してまだ1年余りのベンチャー企業でした。コムデックス買収にかかった資金は8億ドル(当時の為替レートで800億円弱)で、「身の丈に合わない」「リスクが高過ぎる巨大投資」などと批判されました。 一方でこの時、孫氏はアデルソン氏に「値引き交渉はせず、言い値で買う」と宣言したそうです。この度胸が買われたのか、孫氏はアデルソン氏に経営者としての才覚を認められたようです。 コムデックスの買収によって孫氏は、IBMのルー・ガースナー氏やマイクロソフトのビル・ゲイツ氏を会場で紹介する立場となり、ソフトバンクは米国のコンピューター業界で誰もが知る会社となりました。こうしてその後、米国Yahooと合弁でヤフーを設立し、主にインターネットや通信の領域で次々と投資する、現在のSBGへの道を切り開いたわけです。 一方のアデルソン氏は、コムデックスの売却益8億ドルを元手にカジノ事業に乗り出します。米国だけでなくマカオやシンガポールにもカジノやホテルを建設し、実業家として成功を収めました。2018年の推定総資産は350億ドル(約3兆6千億円)で、16年の米大統領選ではトランプ氏に2000万ドルを献金し、大統領就任式でも500万ドルを負担したと報じられています。 このように孫氏とアデルソン氏は、M&Aの売り手と買い手になったことで互いのビジネスを成功に導いた間柄です。そして、不動産業をベースにカジノ経営にも進出したトランプ氏が、カジノ経営のノウハウをあおいだのがアデルソン氏でした。こういうわけで、孫氏とトランプ氏をつないだのがアデルソン氏だと言われています。