トヨタドライバーにも繋がった“F1の道”。日本で戦う多くの実力者に刺激「夢やロマンがある」
富士スピードウェイでのスーパーフォーミュラ第6戦・第7戦を前に、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)による記者会見が実施された。その中で明らかとなったのがTGRとハースF1の提携。これは技術面に限らずドライバー育成の分野も含まれており、「TGRの育成ドライバーがハースF1のテスト走行に参加する」という計画まで発表された。 【リザルト】坪井翔が大きくリード! 2024年スーパーフォーミュラ:ポイントランキング このテストは基本的に“TPC”と呼ばれる型落ちマシンでのテストとなるが、具体的にトヨタからどのドライバーが参加するかは決まっていない様子。GAZOO Racing Companyの高橋智也プレジデントは会見で「現時点で個人名については決定しておらず、これから検討してまいります」としつつ、「先ほど名前を出していただいたドライバー(宮田莉朋)以外にも、もっと若い世代のドライバー育成も進めていますし、幅広い視野で検討してまいります」とコメントしていた。 高橋プレジデントが「もっと若い世代のドライバー育成」と言及したように、今季スーパーフォーミュラ・ライツ参戦中でマカオGPへの出場も決定した小林利徠斗や中村仁、またFIA F4参戦中で今年のル・マン24時間レースも訪問した佐野雄城や卜部和久のような若手育成ドライバーにとっては、これから海外のフォーミュラカテゴリーに挑戦し、ゆくゆくはF1テストに参加するというチャンスが増えたのも確かだろう。ただ昨年29歳にしてマクラーレンF1のリザーブドライバーとなった平川亮や、スーパーフォーミュラとスーパーGTのタイトルを引っ提げて24歳でF2に挑戦した宮田のように、中堅やそれに近い層にもチャンスがあるかもしれない。 既にトヨタのドライバーとしてスーパーフォーミュラやスーパーGTといった国内トップカテゴリーを戦うドライバーにとって、今回の発表はどのように映ったのか? まず昨年の宮田と同じく、今季のスーパーフォーミュラとスーパーGT(GT500)の2冠が視野に入っている坪井翔。年齢は既に29歳だが、GT500では既に2度王座に輝くなど、その実力はトップクラスと評価される。 その坪井が富士でのスーパーフォーミュラを制した後の記者会見の中で、「今回のトヨタの発表を受けて、F1に対する意識は変わったか」と問うと、坪井はこう答えた。 「F1に対する価値は、発表があったから変わるものではありません。ただ誰が乗るにしても、トヨタとして夢があるステージが作られることは、トヨタのドライバーとしてモチベーションが上がることだと思います」 「これから上がってくる子が『トヨタに入りたい』と思ってもらえる活動にも、間違いなくなっていると思います。モリゾウさんの思いも僕たちには伝わってきていますし、それが形になっているのはトヨタにとっても良いことだと思います」 「テストのチャンスに関しては、誰が乗れるか分かりませんが、そういう候補に並べるような成績を残さないと望みはないと思うので、僕は目先のスーパーGT、スーパーフォーミュラで2冠を獲るのが今年の目標です」 「それを達成すれば道が開けてくるかもしれません。その先はどういうチャンスが巡ってくるか分かりませんが、僕はまだスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲れていませんから、まずはトムスでチャンピオンを獲れるように頑張りたいです」 また今季スーパーフォーミュラでトヨタ勢2番手のランキング5番手につける27歳の福住仁嶺は、かつてホンダの育成ドライバーとしてF1直下のシリーズに挑戦した過去がある。GP3(現FIA F3)では2017年にランキング3位を獲得するも翌年のF2では苦しみ、海外挑戦はそこで終了となった。 今季トヨタ陣営に移籍した福住は、その理由のひとつとして「今はトヨタも色々なチャレンジをしていて、海外のチャレンジという部分もすごく見えてきている。僕としてもそういったチャレンジをやめたくない」と昨年末に話していた。今回のハースF1との提携発表には、当事者意識があるのだろうか? 「もちろんチャンスはあればF1に乗りたいと思います」 そう答えた福住。日本のレース界にとってもポジティブなことだと話した。 「僕は記事に出ていること以上の詳細は知らないですし、何も言える立場ではないと思いますが、ああいった発表はこれからの日本のモータースポーツにおいてはポジティブなことだと思います。特に若手に対して、もっとチャンスの幅が広がる機会だと思うので、非常に良い方向に行っていると思います」 またトムスからスーパーGTとスーパーフォーミュラに参戦する笹原右京も、ホンダ出身。彼は特にF1志向が強く、ホンダ育成に入るまでは単身ヨーロッパに渡り、現在のF1ドライバーたちとしのぎを削ってきた。 そんな笹原は、今回の発表を「嬉しいニュース」と表現した。 「僕らがスーパーフォーミュラやスーパーGTなど色々活動していく中で、あらゆるチャンスや可能性が広がったと僕は思っています。モチベーションが上がる、ワクワクするようなものを現実として見せてくれるモリゾウさんには感謝しかないです」 「幼い頃からずっとF1を目指してきた中で、年齢も重ねて、もしかしたらチャンスも減っちゃうかもしれませんけど、いつ何が起きるか分からないというのは、自分の人生でも何度も経験してきました。だからこそ今やっているGTとSFの両方でできるかぎりベストを尽くす……それが今の自分に課されていることだと思います。そういう機会があれば、ぜひトライさせていただきたいと思います」 「今僕は28歳ですが、若い方がチャンスがあると思うし、色んな面で有利に働くところはあるかもしれないですが、それをひっくり返す何かを自分たちが生み出すことができれば、チャンスをいただけるかもしれない。とにかく、現状でできることのベストを尽くして、頑張るのみです」 「でも、嬉しかったですね。業界全体としてシンプルに湧くニュースというか、夢とかロマンがあるというか……とんでもないお金もかかるし、大変なこともいっぱいあると思うんですけど、感謝です。空回りせず、うまくその方向に進めればと思います」 そして現在はスーパーGTのGT300クラスでタイトル争いに絡み、スーパーフォーミュラでも代役出場という形ながらデビューを果たし入賞を飾った平良響は、現役のTGR-DC育成ドライバーのひとり。現在24歳と、上記のドライバーたちよりも若い。 来季に向けては、トヨタ陣営からのスーパーGT・GT500クラス昇格、スーパーフォーミュラのレギュラードライバー昇格を目指しているという平良。ただ彼もかつては、F1ドライバーを目指してホンダのスクールを受講した過去がある。 「元々SRSを受けたのも、ホンダがF1をやっていたので。目指せF1!ということで受講しました。残念ながら落ちてしまい、F1をやっていなかったトヨタに入りましたが、今回の発表は率直に嬉しいですね」 「今自分がいるトヨタの一番先にはF1が繋がっているということですからね。平川さんの発表で一気にその感覚がグッときていましたが、今回の発表でもっと『お、繋がったな!』という感じがありますね」
戎井健一郎
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