展示物に新種? 愛知・科学館のヒゲクジラ全身化石
展示物に新種? 愛知・科学館のヒゲクジラ全身化石 THEPAGE愛知
愛知県蒲郡市の生命(いのち)の海科学館に、開館当初から展示されているクジラの化石について、新種である可能性が高まっている。新種と結論づけられた場合、正式発表は2016年春ごろの予定。同館では化石調査報告展を開いて化石を広くアピールしながら、研究チームの正式発表を心待ちにしている。
化石は、歯の代わりに「くじらひげ」という器官でえさをとるヒゲクジラの仲間。南米ペルーで約800万年前の地層から見つかり、骨格がほぼそろっているもので、1999年の同館開館に合わせて、海をテーマにした科学館にふさわしいと、購入した。大きさは9メートルほどあり、古生物のクジラの全身化石が展示されているのは、県内では同館のみ。 当初から同館1階に展示。代表的な展示物として位置づけられてきたが、さらに光が当たったのは2015年2月。愛知県で日本古生物学会が開かれた際、出席者でクジラ研究の第一人者、国立科学博物館の甲能直樹博士が、同館に立ち寄った。そこで化石を見た際、上あごに特徴があり新種の可能性が高いと見て、調査を申し出た。同年6月には研究チームを組み、化石の一部を解体するなどして、調査を進めた。 新種と見られる特徴について、6月の時点で甲能博士は「上あごと目の上の鼻にあたる部分がつながる部分が細い」などと説明。さらに、種類を特定するための決め手となる耳骨も取り出して調査し、研究している。
新種と結論づけるために、クジラでは約300カ所の調査をする必要がある。うち240カ所は頭骨、さらに頭骨のうち70カ所は耳骨に集中しており、一つ一つ調査ポイントを調べて論文にまとめなければならない。 さらに、論文にまとめた後は世界的な学術誌に掲載することも労力を要する。学術誌側の審査が入るためで、論文に疑いがある場合は再調査や、不掲載の判断が下ることもある。掲載されて初めて世界的に新種と認められる。生命の海科学館の相澤毅学芸員は、甲能博士との報告のやりとりから「(新種である)手応えはつかんでいるようです」と話した。 新種となれば、古代のクジラが現在の形に変わった過程の研究に、生かすことができるという。ただ、一般公開されている化石が“世界唯一の標本”となるため、一部を金庫に保管するなど、厳重な管理を求められる可能性もある。相澤学芸員は「新種となれば管理方法を考えなければならないが、新種決定のお祝い披露などをすることになるでしょうから、身近にある貴重な化石に、興味をもってもらえたらうれしい」と期待を込めた。 (斉藤理/MOTIVA)