なぜ井上尚弥は約1億円のファイトマネーを稼ぐのか…20日米ラスベガスでのダスマリナス防衛戦に死角なし
ダスマリナスは33戦30勝(20KO)2敗1分のキャリアを持つサウスポー。2014年には日本のリングにも立ち木村隼人からダウンを奪い判定勝ち、現在、引き分けを挟み12連勝中だが、2019年10月のチャットパヤック・シットコポン(タイ)にTKO勝利して以来、新型コロナの影響で試合をしていない。この試合も格下が相手。ダウンはなかったが、ボディを利かせ最後は左フックが当たって動きが止まったところでレフェリーが試合を止めたもので参考にならない。 実力を査定する試合は、同年3月に岩佐亮佑のスパーパートナーを務めたこともある同じフィリピン人のケニー・デメシリョに判定勝ちしたIBF挑戦者決定戦だろう。デメシリョの前に出てくる好戦的スタイルに右のジャブを軸としたリーチと足を使って応戦。左はロングフック、ストレート、突き出すようなアッパーなど多彩で大橋会長が「ワンテンポ遅れてくる」と評するようにタイミングは独特だ。 パンチと同時に頭が飛んでくるためバッティングも要注意。 ロープを背負うシーンが多々あり、途中、右目の上もカットしたが、決定的な一打を許さなかった。終盤には、強引に左右のスイング系のパンチを振り回すなど、距離を保つ慎重さと荒々しさの両方を備え持つが、一発の怖さもスピードもない。 おそらく井上に対してもデメリシリョ戦と同じく足を使って距離を取り、警戒しながら戦うだろう。だが、デメシリョレベルのプレッシャーにさえ苦しんだ。この試合は一人が2ポイント差だった。足で攪乱したが、ステップインのスピードが違い、入り方に様々なパターンを持つ井上を相手に動き続けることは不可能だ。 左を打つ際にはガードも下がる。 加えて、井上には左構えボクサーへの苦手意識はなく、過去にオマール・ナルバレス(アルゼンチン)、ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)といったサウスポーの強豪をいずれも鮮烈の早期KOしてきた。 井上は「長身サウスポーなんで距離感だったり、突破口やディフェンスなど色々と気をつけなくちゃいけないとことがある。まずは一発に気をつけながら崩していく。攻め急がずにゆっくりと。強引に倒しにいく?そんなつもりはない。一発だけを気をつけて、しっかり組み立てれば、いつかつかまえることができる」と言い、「リングに上がってから感覚的につかんでいく」との戦略を口にした。 王者に死角があるとすれば油断とモチベーションの問題だけだと思っていたが、まったくといいほどスキはない。 大橋会長はインパクトのあるKO決着へ期待を寄せる。 「ドネアもKOなんで、KOで決めてバンタム級ウォーズを盛り上げてもらいたい」 ダスマリナスには気の毒だが、油断なきチャンピオンに番狂わせが起きる要素は何ひとつ見当たらないのである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)