HPEからも“脱VMware”の提案 ジュニパー買収によるネットワーク革新にも意欲
Hewlett Packard Enterprise(HPE)は、スペイン・バルセロナで「HPE Discover Barcelona 2024」を開催した。VMwareの代替となる仮想化ソフトウェア「HPE VM Essentials」をはじめ、顧客が今抱えている課題に即した新ソリューションが発表された。 【もっと写真を見る】
Hewlett Packard Enterprise(HPE)は、2024年11月20日~21日、スペイン・バルセロナで「HPE Discover Barcelona 2024」を開催した。VMwareの代替となる仮想化ソフトウェア「HPE VM Essentials」をはじめ、顧客が現在抱える課題に即した新ソリューションが発表された。 本記事では、CEOを務めるアントニオ・ネリ(Antonio Neri)氏の記者向けの発表会の内容を中心に紹介する。 VMware代替仮想化ソフトをはじめ、顧客ニーズに即したソリューションを迅速に展開 HPE Discover Barcelonaは、毎年6月に米国で開催する年次イベントの欧州版。次期決算発表が近いため、業績については触れられなかったが、直近9月の決算は、売上高は前年同期比10%の増加、クラウド事業の物差しとなるARR(年間経常収益)は前年同期比35%増加と好調だった。それを裏付けるように、ネリ氏は「イベントが(HPE Discover Barcelonaとしては)過去最大の規模になった」と胸を張った。 2018年2月にCEOに就任して6年半が経つネリ氏だが、「戦略に変更はない。(HPEは)エッジからクラウドを網羅するハイブリッドクラウドを提供する」と強調する。加えて、「ただし、変化したものもある。イノベーションとそれを顧客に届けるスピードは加速している」と自信を覗かせた。 イベントでは、「VMware代替の仮想化ソフト」、プライベートクラウド「HPE GreenLake for Private Cloud」ベースの「ソブリンクラウドソリューション」、そして「HPE Alletra Storage MP」ストレージの最新機種という3つが大きな発表となった。いずれも、顧客の現状を踏まえて展開されるソリューションになる。 まずは、VMware代替の仮想化ソフトである「HPE VM Essentials」から見ていこう。 HPE VM Essentialsは、2024年6月に独自のKVMベースのハイパーバイザーを発表した際には、HPEのプライベートクラウドソリューションに組み込まれていた機能であった(参考記事:“オンプレ回帰”のユースケースにも、HPEがGreenLakeプライベートクラウドにKVMの仮想スタック)。HPEのハイブリッドクラウド事業COOであるハン・タン(Hang Tan)氏によると、ベータプログラムにおける顧客からの要望を受けて、独立したソフトウェアとしても提供することになったという。ProLiantサーバー、AlletraストレージといったHPEの機器以外でも動作する。 発表の背景にあるのは、他でもないVMware by Broadcomだ。ネリ氏は“Broadcom対抗”と明言はしなかったが、「(Broadcomのライセンス体系の変更によって)仮想化コストが3~5倍になったという声を聞く」と述べる。一方のHPE VM Essentialsはソケット単位の課金であるため、仮想化のコスト増が大きな負担になっている顧客の救済策になり得る。 HPE VM Essentialsは、HPEが2024年前半に買収したMorpheus Dataのマルチ・ハイブリッド管理技術を利用して、既存のVMwareのワークロードも統合して、単一の管理プレーンで仮想マシンを扱える。オブザバビリティーのOpsRamp、ディザスタリカバリーのZetro、コスト最適化のCloudPhysicsといったHPEのソフトウェアも利用可能だ。 単独のソフトウェアとしては2024年12月に、HPEプライベートクラウドに組み込む形態では2025年半ばまでに、それぞれ提供開始を予定している。 2つめの発表である、ソブリンクラウド向けのソリューションは、HPE GreenLake Cloud Platformを“disconnected(分離)モード”で提供し、それをサービスプロバイダが利用してソブリンクラウドを提供できるものだ(詳細は後日公開の記事を参照)。 最後のHPE Alletra Storage MPでは、ブロック、ファイルに加えて、オブジェクトをサポートする「Alletra Storage MP X10000」が発表された。「非構造化データのプラットフォーム」と位置付けており、単一のアーキテクチャ、単一のクラウド、単一の運用モデルで3種類のデータサービスを利用できる。 特徴はキャパシティと性能の分離。これにより、オーバープロビジョニングを回避でき、TCO削減につながる。シニアバイスプレジデント兼ストレージ担当ゼネラルマネージャーであるジム・オドリシオ(Jim O'Dorisio)氏は、「通常のモノリシックアーキテクチャと比較して、コストは最大40%、電力消費も最大45%削減可能だ」と述べた。 また、NVIDIAとの協業により、ダイレクトメモリアクセスを実現しており、GPUの使用率も改善できる。これらの特徴から、データレイクなどのユースケースに最適だという。 Alletra Storage MP X10000は、2025年に提供開始予定だ。なお、HPEはAlletra Storage MPでも、インターネット/パブリッククラウドに接続しない形で利用できるdisconnectedモードのソリューションを用意する。 HPEを牽引する「HPE GreenLake」の3大クラウドとの違い HPEの好調さについてネリ氏は、「顧客のニーズに、独立した技術ではなく、構造的かつ統合された方法で対応しているから」と分析する。ハードウェアベンダーからクラウド時代のシステムベンダーに転身すべく、HPEが導入したのが「HPE GreenLake」だ。2018年にローンチして以来、サービス範囲を拡充している。 ネリ氏は、GreenLakeは「第4のクラウド」だと紹介する。つまり、Amazon、Microsoft、Googleに続くクラウドというわけだ。 他のクラウドとの違いは“ハイブリッド性”にある。「GreenLakeはオープン。さらに設計段階からハイブリッドで、パブリッククラウドインスタンスの管理機能も体験の一部として含まれている」とネリ氏。加えて「ネットワーク、ストレージと様々なアプローチで体験は始まるが、その体験は全て同じHPE GreenLakeとなる」と強調する。また、サーバーにおけるライフサイクル管理など、ソフトウェア側の分離を進めることで、キャパシティと性能のそれぞれを最適化できる。 現在のHPE GreenLakeの顧客は3万7000社。「この1年の間、四半期ごとに3000社を新規獲得するペースで増えている」とネリ氏。さらには「(GreenLakeで)管理下にあるデバイスの数は400万台。最も誇っているのは、顧客に代わって我々が管理しているデータ量。現在2.5エクサバイトを超えている」と胸を張った。データがあれば、そこにAIを適用できる。これはHPEと顧客にとって重要なポイントになる。 ネットワークの革新に拍車をかける ― Juniper CEOが登場 今回のイベントで印象的だったのが、ネットワークスイッチへのフォーカスだ。 もともとHPEは、Hewlett Packardからエンタープライズ向け事業として分社化し、その後は不要な事業を削ぎ落として(売却して)いった。その後、新たに必要な事業として買収したのがAruba Netrworksだ。 ArubaはWi-Fiアクセスポイントなど無線通信のスタートアップで、HPEの下でArubaブランドでエンタープライズ向けのスイッチなど製品を拡充してきた。しかし、ネリ氏はこれまでにも、「ネットワークで革新が起こっていない」と口にしていた。 そして2024年年始に発表したのがJuniperの買収計画だ。現在、規制当局の審査を受けており、2024年末から2025年に取引が完了する見込みだ。買収金額は140億ドルと報じられている。 ネリ氏は「サーバーやコンピューティングでは大規模なシフトが起きている。ネットワークが追いつく時だ」と述べる。AIの時代には、大量のデータを運ぶための“巨大なパイプ”が必要となり、ハイパースケーラーはデータセンター間を繋ぐネットワークに投資しているところだ。「ネットワーク分野は、ドットコムブーム前後の15年程度はイノベーションが起きていた。コンピューティング側のイノベーションに合わせるためには、迅速に変わらなければならない」(ネリ氏)。そして、最大手であるシスコを暗に示しながら「顧客は選択肢を必要としている」と続けた。 Juniperは、高性能のルーティングとスイッチの技術を持ち、顧客企業にはトップ20のグローバルサービス事業者、トップ30のクラウド事業者が含まれる。さらに、AIを活用したネットワーク運用を実現する「Mist AI」では、「AIネイティブオペレーションでは、どこよりも先駆けている。これを利用してネットワーク運用をシンプルにでき、信頼性、スケールを得られる」と評価した。 JuniperもHPEも、Gartnerのエンタープライズ向け有線/無線インフラのマジック・クアドラントでリーダーに位置付けられており、「統合することで、ネットワークのイノベーションを加速する。モダンなアプリケーションとワークロードのニーズを満たすネットワーキングソリューションを提供できる」という。AI向けのネットワーク、AIを使ったネットワーク運用の両方で、技術革新を続けていく、と述べた。 6月の米国Discoverイベントではあまり触れなかったが、今回の基調講演では、JuniperのCEOであるラミ・ラヒム(Rami Rahim)氏も登場。欧州のパートナーや顧客の前で、HPEとJuniperが統合する強みについてアピールした。 ラヒム氏はAIによりネットワークの重要性が高まっているとし、「AIアプリケーションのトラフィックは2年ごとに10倍、クラスタの規模は4倍成長すると調査会社(Dell’Oro)が予想している。また、AI検索は通常のインターネット検索の10倍の電力を必要とすると電力研究所(EPRI)が発表している。つまり、顧客は信じられない規模のトラフィック増加に対応しつつ、AIが消費する電力需要も管理しなければならない」と語る。そして、「我々は、AIデータセンター向けとして800Gのイーサネット対応ルーターとスイッチを最初に発表した」と強調した。 これに対し、ネリ氏は「AIワークロードと複数のレイヤーでの接続のために設計されたネットワークアーキテクチャが必要になる。セキュリティを含む包括的なネットワーキングスタックが求められている」と述べた。 買収が完了していないことから具体的な製品計画には触れなかったが、両氏はネットワークの性能だけではなく、AIOpsなどの技術を使ってネットワーキング展開・運用・管理を自動化することの重要性も強調した。 AI時代にHPEがリードできるというネリ氏の確信の根拠の1つが、スパコンだ。11月18日に発表されたスパコンランキングの「TOP 500」では、HPEのスパコンが1~3位をフィニッシュを独占した。(1位「El Capitan」、2位「Frontier」、3位「Aurora」) 「スパコンと生成AIは別と思うかもしれない。ワークロードは異なるかもしれないが、土台のアーキテクチャは全く同じだ」とネリ氏。スパコンで試され、培ったIP(知財)を生成AIにどのように適用するかが腕の見せ所だという。ここでもネットワークを強調し、「高いレベルの性能を実現する理由のひとつで、中核になるのが、HPE独自のネットワーキングファブリックだ。我々の技術は、大量の処理を大規模に支援できる。さらにオープンなので、どのようなシリコンでも利用できる」と述べた。 文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp