アドラー心理学に詳しい岸見一郎がアドバイス「中年の危機」の乗り越え方
これまでの人生を見つめ直す
「ベストをつくしてきた」のに、自分で望んだわけでない問題が中年になって表面化したのであれば、ただ待つのではなく、人生についてこれまでとは違った見方をし、いまから行動を起こす必要があります。直面する難題に絶望しないで、この危機を、新たな自分を見つめ直し、これまでとは違う人生を生きるための好機であると捉えるべきです。 これからは、ただ「ベストをつくしてきたつもり」で終わらず、意識して自分にとってどのように生き、行動することが最善なのかを本当に考えなければなりません。若いときと違って多くの経験(ときに苦難)を重ねてきたので、いまなら見えることがあるはずです。 具体的には、パートナーや子どもとの関係についていえば、コミュニケーションが圧倒的に足りません。自分が立っていたはずの「固い地面」が「簡単に割れてしまう薄い氷」でしかないのは、家族の考えが理解できていると思っていたのに実際はそうではなかったからです。だから、突然別れを告げられたり、子どもが家に帰ってこなかったりするということが起こるのです。理解するためには、対話の時間を設けなければなりません。 仕事についていえば、職を突然失うということが起こらなくても、現在の仕事について考えることは必要です。一生懸命働いているのに、ただ苦しい。だから現在の仕事を続けることはできない。でも、働かなければ食べていけない。そう思い直しても、自分が本当にしたいことを封印する必要はありません。仕事についても、パートナーや家族に話してみるべきです。 仕事に追われ、身体に負担をかけ続ける生活を見直すことも大切です。若さを過信して無理を続けていると、身体がいつか悲鳴を上げるでしょう。自分の身体の声に耳を傾けず、無理をしてしまうのは、責任感が強いからではなく、一生懸命働いている自分を職場の同僚や上司、また家族にも認めてほしいからです。そのような働き方、さらには生き方を改めなければなりません。 自分が立っていたはずの「固い地面」が割れるような辛く苦しい経験をしたからといって、奈落の底に落ちるわけではありません。ただし、「いったいどこが悪かったのかわからない」で終わらせてはいけないのです。 そのような経験をしたからこそ、自分自身や家族との対話の時間を持てるのです。何が人生において本当に大切かを考えれば、これからも問題がたびたび起こることはあっても、深刻にならずに生きることができるでしょう。 ※お送りいただいた相談内容は、編集部で厳選して編集するため、そのまま掲載されることはありません。
Ichiro Kishimi