アドラー心理学に詳しい岸見一郎がアドバイス「中年の危機」の乗り越え方
【今回のお悩み】 「中年の危機に直面しています。どうしたらこの状況から抜け出せますか?」 【画像】人生についてこれまでとは違った見方をすること 人生の中頃に差し掛かり、自分の人生はこのままでいいのかと精神が不安定な状態になる「中年の危機」は、中年期の約80%が陥るといわれています。それでは、この時期をどうやって乗り越えたらいいのでしょうか? 哲学者の岸見一郎先生に相談しました。 いつからが「中年」なのかといわれても、単純に年齢で区切られるわけではありません。かつては老いの入り口というイメージが強かったものの、いまは40代、50代でも若いと捉える人は多いでしょう。 とはいえ、体力や健康の衰えを多少なりとも自覚しないわけにはいかなくなりますし、仕事や家族における自分の役割が変化してくると、周りからの期待や圧力を感じるようになります。さらに、解決が困難な課題に直面すると、これまでとは違った状況のなかで、その課題に適切に対処しなければならなくなります。 若い頃であれば、これからの人生をどう生きるか計画を立てられると思い、もしその通りにはならないことが起きても、やり直せると考えますが、やがてすべてが現実になり、これから先の人生を大きく変えることはできないと思うようになります。 山本文緒の短編集『プラナリア』には、人生の危機に直面し、迷いを感じる人々が登場します。 働くことが好きで、迷ったことが一度もなかったのに、夫から一方的に離婚を言い渡され、夫の会社で働いていたので自動的に職も失った女性が、「自分の立っていた固いはずの地面が、こんなにも簡単に割れてしまう薄い氷だとは知らなかった」と語っています(「ネイキッド」)。 一方、娘が外泊するようになり、夫がリストラされた女性は、「いったいどこが悪かったのか分からない。ベストをつくしてきたつもりだったのに、娘の人生からリストラされてしまった」(「どこかではないここ」)と思い詰めます。 何もかもうまくいくはずだったのに、思いがけず病気で倒れる。付き合っていた人や一緒に暮らしていた人から別れを切り出される、仕事を辞めなければならなくなる。このようなことは、中年でなくとも、若いときでも起こりえる事態ですが、中年になるとそれまで隠されていた問題が、いまや不気味に立ちはだかり、そこから逃げることはできなくなります。若い頃には見えていなかった、あるいは見たくなかったことがはっきりと見えてくるようになるのです。 仕事に不満はあっても生活するためには働くしかないと自分に言い聞かせたり、あるいは現状にさしたる不満もなく、いまの仕事は本当に自分に向いているのかどうか、ということを考えてこなかったりしたのかもしれません。しかし、仕事に疑問を持つと、もとに戻れなくなります。 また、子どもに何か問題があったときには親の結束は強かったでしょう。その問題もやがて解決し、また子どもたちが親の手から離れるようになると、互いを見つめなければならないことになります。 結婚後間もなくして子どもが生まれ、そのあいだ二人だけで過ごすことがないと、子どもが自立してようやく、二人が互いを見つめることになるのです。子どもの問題がなくても、あまり表面化することがなかった二人の食い違いや溝が見えてくることもあります。