Google と米司法省との戦い、反トラスト法違反訴訟での法廷戦術とは?
GoogleのM&Aはデジタル広告費の成長を促した
Googleは「司法省の主張は歪曲であり、2008年に31億ドルで買収したダブルクリック(DoubleClick)にせよ、2011年に4億ドルで買収したアドメルド(AdMeld)にせよ、GoogleのM&Aは市場に新たな製品やサービスを創造するという意図のもとに行われた」と主張している。 Googleの弁護団はおそらく、このさき数週間の法廷弁論で「反トラスト法が促進しようとしている競争とは、まさにこのような競争である」と主張するだろう。訴訟代理人のリー氏らはむしろ、「Googleがもたらした広範囲の技術開発とイノベーションのおかげで、パブリッシャーが広告収入でコンテンツ制作をまかなえるようになった」と主張する可能性すらある。
Googleのエコシステムのほうがうまく機能している
Googleはその市場支配力を利用して、パブリッシャーや広告主が同社製品のみを排他的に使用せざるを得ない状況に追い込み、よって彼らを同社のエコシステムに囲い込み、競合他社のサービスを利用する能力を制限したとされている。 しかし、弁護団はおそらく、同社のエンドツーエンドのエコシステムサービスのほうがより効率的に機能していると主張し、ここでもまた競合他社のサービスに言及すると思われる。さらに、Googleに「取引義務」はないとの主張も想定される。
Googleは実質的な弱者の味方だ
弁護団はおそらく、Googleのアドテク製品は相互運用可能であり、パブリッシャーはGoogleの製品のみを使用する必要はないとも指摘するだろう。 さらに、中小の広告主やパブリッシャーもGoogleのツールを幅広く利用しており、その理由は同社のアドテクスタックが提供する一気通貫の有用性にほかならないと主張することも予想される。競合他社もこうした中小企業の懐を狙ってはいるが、弱小の広告主には複数のベンダーが提供する迷路のように入り組んだアドテクスタックを効率よく活用できるだけのリソースがない。
法廷戦術は?
裁判の傍聴人たちは気づくだろう。公判の開始当初、司法省側の証人の一部はGoogleの主張とまったく逆の証言をしていた。そして、Googleの過去15年間の戦略がデジタル広告費の成長を促したとしても、Googleは確実にその分け前を手にしていたと指摘するに違いない。 司法省の計算を信じるなら、その分け前は最大37%に達する。 したがって、Google側の訴訟代理人が公判当初に行った尋問のいくつかについて、ここでいま一度おさらいしてみることは、Googleの弁護団が司法省側の論理の穴を突いてくるであろう裁判の後半戦を占う意味でも、十分に意味のあることだ。 司法省側の証人に対する反対尋問で、Googleは広告市場の多様な側面をどう定義するかについてさまざまな質問を行っている。たとえば、「ディスプレイ広告はほかの種類の広告と同じ、または互換可能か」聞き、その線引きの疑問視を狙った。 ある証人に対しては「Googleが扱う米国郵政公社の予算にWebディスプレイ広告の特定のラインアイテムがないのはなぜか」と質問している。さらに、あるエージェンシーがディスプレイ広告からソーシャルメディアに予算を移動したことについて、その理由を尋ねる場面もあった。 アドテク企業の幹部たちも証言台に立ち、各種の分野でGoogleとの競争の有無を訊ねられた。たとえば、トレードデスク(The Trade Desk)のジェド・ディダリック最高収益責任者はGoogleとの競合関係の有無を問われ、「DV360とは競合する」と答えていた。 この質問を行ったGoogleの訴訟代理人は、ディダリック氏を含め、複数の証人に同様の質問を行っている。その狙いは、司法省が示した市場の定義と競合関係の線引きを曖昧にすることだと思われる。また弁護団は「パブマティック(PubMatic)やトレードデスクはディスプレイ広告市場でGoogleに成長を阻まれたと訴えるが、実際には成長している」とも指摘している。 さらに、トレードデスクがCTVとデジタルオーディオ領域で成長を遂げていること、パブマティックがアクティベート(Activate)の買収を通じてSPO(サプライパス最適化)の市場シェアを伸ばしていることにも言及した。 加えて、Googleは違反とされる行為の多くが起きた10年間に、アドテク業界が大きく変化したことにも触れている。冒頭陳述や反対尋問の一部で、AIがこの市場を激変させうること、またすでに激変させつつあることにも間接的ながら言及している。 あるとき、Googleの訴訟代理人がクアッド(Quad)のジョシュア・ロウコック氏に「ChatGPTは検索に破壊的な変革をもたらしうる」という古いツイートについて訊ねようとしたところ、司法省がこの質問に異議を唱え、ChatGPTは尋問の範囲外だと指摘した。判事は原告の異議を認め、当該事項に関するさらなる質問や回答を禁じた。判事はまた、「この公判中、ChatGPTが話題にのぼったことは一度もない」とも述べている。 Googleの訴訟代理人は「デジタル広告市場は競争的な市場だと思うか」という質問をことあるごとに行った。彼らはまた、GoogleのWebサイト、ブログ投稿、書籍などから同社の発言を頻繁に引用し、自らの主張の裏づけとした。Googleの行為が競争を阻害したと証明する責任は司法省側にあるため、この点は特に重要だ。 裁判を傍聴する人々のあいだでは、法廷闘争は顧客をめぐる企業間の競争とは異なるとの議論もある。また、アドテク企業の競争は、Googleがもっともおいしいところを持っていったあとの残り物をめぐる競争だという人々もいる。 さらに、Googleは証人の信用を失墜させる戦術に訴え、供述録取書と証言の内容に矛盾があると主張した。これを裏づけるために、証人が過去に行ったニュースのインタビューでの発言、各種届出書、ブログ投稿、さらには10年近く昔のクオーラ(Quora)への投稿まで持ち出した。 [原文:What are the likely Google defense tactics in its existential battle with the DOJ?] Ronan Shields and Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:坂本凪沙)
編集部