「知的障害のある人」の選挙権サポートを実現した“狛江モデル”とは 「選挙情報のバリアフリー化」が重要な理由
知的障害者の選挙権が「後回し」にされてきた理由
歴史をふりかえると、アメリカの公民権運動や世界各国のフェミニズム運動では「選挙権」の獲得が目標として重視されてきた。 堀川教授は、選挙権とは「市民が社会にメンバーとして参加することを象徴的に示すもの」であると表現する。 これまでの障害者運動では「選挙権の獲得」は優先的な目標とされてこなかった。歴史的に、障害者たちは住まいや移動が制限されるなど、生活に関する切実した問題に直面し、さらに命までもが脅かされてきた。それらの問題への対応や、教育を受ける権利や労働に関する権利などが優先され、選挙権は障害者運動においていわば「後回し」にされたという面がある。 さらに、障害者の選挙権を保証する対応が開始されるようになってからも、視覚障害者や聴覚障害者への支援は先に進んできた一方で、知的障害者への対応は遅れてきたという実態がある。 「近年になって、ようやく、知的障害者の選挙権に関する問題意識が共有され、支援が広がり始めたのです」(堀川教授) なお、堀川教授の著書では、知的障害者にとってわかりやすい選挙情報を提供することで、障害を持たない若者や高齢者にとっても情報へのハードルが下がる可能性が示唆されている。 直近では11月のアメリカ大統領選挙や兵庫県知事選挙の結果などを受け、「考えのない投票や安易な政治参加はポピュリズムにつながる」などの批判や、民主主義そのものの存在意義を問い直す声も散見されるようになってきた。 日本では成年被後見人が2013年まで選挙権を奪われていたこと、現在でも身体・知的障害者は投票にさまざまなハードルが課されていることは失念されがちだ。障害者週間をきっかけに「狛江モデル」について学ぶことは、私たちの社会の前提となっている「民主主義」についての考えも深めさせてくれるだろう。
弁護士JP編集部