優遇求めデモ、相次ぐ暴行事件……インドで根強い「カースト制」の今
低位カーストの権利回復運動が盛んに
カースト制は個人を能力や才能ではなく、出自で判断するもので、近代的な人権の観念に反するものです。そのため、独立にともない1950年に成立したインド憲法では、カーストに基づく差別が禁止されています。 さらに、学校入学、奨学金の付与、公的機関での雇用などで一定の割合を不可触民や低位カーストに当てはめる「留保制度」の導入も定められています。これは差別の対象として、貧困など社会的に不利になりやすい人々に優先的に機会を保障し、不平等を是正するための制度です。留保制度の対象となる人々は、公式には「スケジュールド・カースト」と呼ばれます。1950年のインド憲法では1108のスケジュールド・カーストが規定されていますが、政府や州政府が指定することもできます。 人権意識の高まりとともに、低位カーストや不可触民の権利回復運動が盛んになり、留保制度は段階的に拡大してきました。例えば、高等教育における優先枠は、以前はスケジュールド・カーストと少数派の部族(スケジュールド・トライブ)の合計で全体の22.5パーセントでしたが、2007年に少数派のキリスト教徒などを含む「その他の後進的カースト」を加えて49.5パーセントにまで上昇しています(これら三つのカテゴリーは全人口の約70パーセントを占める)。 このような制度的保障に加えて、都市化や産業化によって人口の流動性が高まるにつれ、都市では出自によって婚姻や職業選択が規定されるカースト制の持つ拘束力が徐々に弱まっているといわれます。例えば、バラモンやクシャトリヤ出身でも、従来ヴァイシャが行うものとみなされてきたビジネスの世界に身を置く人も珍しくありません。 しかし、公式にはカースト制に基づく差別が禁じられていても、インド憲法ではカースト制そのものは否定されていません。 特に農村ではカースト制がいまだに根強く、不可触民や低位カーストの人々に対する差別や偏見もなくなってはいないのです。2011年のUNICEF(国連児童基金)の報告によると、インドでは児童労働に従事する子どもは少なくとも1500万人おり、その大部分が低位カースト出身とみられています。