岡田武史会長のFC今治がJ2昇格「スタジアムを中心に新しいコミュニティをつくり社会を変えたい」
11月10日、サッカーJ3リーグに所属するFC今治がJ2昇格を決めた。日本代表監督として二度のワールドカップを指揮した、あの岡田武史が会長のクラブである。2014年に岡田が会長となりクラブ経営をスタートして10年。その挑戦は、サッカーチームを強くするだけでなく、愛媛県今治市という地方都市のコミュニティや在り方の変革も込めた異例のものだった。今回は昇格決定後の岡田へのインタビューを中心に、その挑戦の歩みや未来を4回に分けて特集する。第1回目は自前で作った2つのスタジアムの話を中心にお伝えする。(文中敬称略) 【画像】朝食を兼ね名物のスコーンを食べる岡田武史会長
涙を見せない岡田武史が泣いた理由
岡田武史は人前で滅多に涙を流さない。 指揮官としてジョホールバルで日本代表が初めてワールドカップ出場を決めようが、北海道コンサドーレ札幌をJ1昇格に導こうが、横浜F・マリノスでリーグ2連覇を果たそうが、下馬評の低かった南アフリカワールドカップでグループステージを突破しようが、“岡ちゃん”は常にクールであり続けた。 指導者からクラブ経営者へ。2014年11月にFC今治の株式を51%取得して代表に就任して以降、四国リーグから2017年シーズンにJFL、2020年シーズンにJ3とステップアップし、代表に就任して10年後にようやくJ2昇格を決めたところでそれは同じだった。 「2025年にJ1で優勝争いをするチームに」とした当初の目標より遅れてはいるものの、激しい競争下にあるなかで順調にステップアップしていることは言うまでもない。 だが11月17日、ファン・サポーターに感謝の思いを伝えるイベントをアシックス里山スタジアムで行なった際、来場者に「僕を信じて集まってくれた社員、スタッフ、そして信じて……」と語ったところで感極まり、目に涙を浮かべる彼がいた。 10年間のチャレンジを振り返りつつ、彼が描くクラブと社会の未来を描く特別インタビュー。涙は意外でした、と筆者が伝えると苦笑い交じりに応じた。 「男は人前で涙を見せちゃいけないって育てられたから、見せたことなんてほとんどないと思う。でもこの前のイベントのときは、うちの社員、スタッフに、いい環境、いい給料を与えたいと思ってきたのに、まだボーナスだって出せてない。それでも俺についてきてくれてね。そんなことを思ったら(心が)苦しくなったんだよ」 社員6人でスタートした小さな会社は、今や「コーチの数を入れたら90人近い」規模まで膨らんでいる。 「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」を企業理念とし、人口15万人ほどの愛媛にある地方都市に根差してきた。 「きちんと計画して、ああしよう、こうしようなんてやってない。先に(描いた)絵があって、そこに向かって目の前のことをやりながら進んできた。だから立ち止まってないよ。走りながら考えてきたって感じかな」 後ろを振り返ることなくガムシャラに走ってきた10年間でもあった。