介護職を辞める最多の理由は「職場の人間関係」…元経営コンサルタントの介護事業者社長が明かす介護業界独特の事情とは?
「飲食店ならすぐに倒産してしまう」と危機感を持ったワケ
介護業界は、どのようにしてこの窮状を脱したらよいのでしょうか。 私は、2つの課題を解決する策は、「生産性向上」しかないと考えています。 実は介護業界では、今でこそ利用者が自由に施設を選ぶことができますが、2000年までは「措置の時代」と言って、行政が、介護が必要だと判断した利用希望者に施設を割り振っていました。介護事業者は、サービス向上などの努力をしなくても、待っていれば利用者も働き手も来てくれる状態でした。 実は20年以上たった今でも、この受け身の風潮は、現在も根強く残っています。私はもともと飲食業界で経営コンサルタントをしていましたが、15年前に介護業界に参入したとき、「このような守りの経営では、飲食店ならすぐに倒産してしまう」と感じました。 余談になりますが、2010年にJALが経営破綻したことを覚えているでしょうか。京セラの創業者である故・稲盛和夫氏が会長に就任したことで再起に至ったストーリーは有名です。JALはもともと半官半民体制で設立されたこともあり、破綻当時も、民間企業でありながら国営企業のような風土があったようです。介護業界も、収入の大部分を介護報酬に依存していることから、同様の傾向があると感じています。 「赤字が多い」ということは、当然ながら「利益が出ていない」ということ。利益とは売り上げからコストを差し引いた金額で、介護業界における売り上げとは、利用者数×単価です。 しかし介護業界が特殊なのは、国が介護報酬(単価)や、介護サービスごとの定員(利用者数)を定めている点です。たとえばグループホームなら1ユニットあたり最大9名、地域密着型通所介護なら1日あたり18名、小規模多機能型居宅介護なら29名などと定員があるうえ、居宅サービスを利用する場合は、利用できるサービスの量(支給限度額)が要介護度別に定められています。売り上げは青天井ではないのです。 そのため、介護事業者は、利用者数も単価も目いっぱい高める努力をしつつ、コストの適正化に取り組まなければなりません。 では、いかにしてコストの適正化を図るのか。 介護業界最大のコストは「人件費」です。ほかにも水道光熱費や給食費、消耗品費などがありますが、およそどこの介護事業者でも、人件費が売り上げの約60~70%を占めています。黒字と赤字の施設に分けた場合では、黒字施設では約62%であるのに対し、赤字施設では約70%と8%の差があります。そのため、人件費(コスト)を適正化することがもっとも大切です。 人件費を下げるとなると、従業員への賃金も引き下げなければならないと思いがちですが、従業員一人ひとりの生産性を高め、少ない人数でも売り上げを確保できれば、現状の賃金のまま人件費率を下げることができます。