『若き見知らぬ者たち』内山拓也監督×磯村勇斗 “主人公の交代劇”への挑戦【Director’s Interview Vol.441】
“主人公の交代劇”への挑戦
Q:彩人として現場にやってきた磯村さんを、初めて見たときの印象はいかがでしたか。 内山:昨日と地続きのような感じで入ってきた感じがあり、そういう息の吐き方、そういう表情になるんだなと。そのままフラットに入って、その強度が高まりながら最後まで終わっていくような感じがありました。日常の延長線上に潜り込んでいくような感覚があり、それが初日からずっと続いていた感じです。 Q:初めて彩人として監督の前に登場したときはいかがでしたか。 磯村:初日の手応えは僕も考えていないですし、別に監督の顔をうかがって芝居はしていない。彩人としての準備は自分の中でしてきましたが、それを見てもらいたいというよりも、初日に撮るシーンにあった、自転車で走ったり坂を登ることが、彩人として日常的に出来るかどうかを気にしていましたね。 Q:磯村さんは彩人というキャラクターをどのように捉えていましたか。 磯村:彩人って、いつ消え去ってもいいような状態だと自分で思っていますが、それでも自分たちが住んでいる場所に、ちゃんと足をつけて生きなきゃいけない。脆いけれどなぜか立っている自分がいる。そういったところをしっかり表現したいと思っていました。生活に満足して生きているわけでもなく、ただただ働き、介護をして、心の奥では弟のことを応援しながらも、それは決して見せない。とにかく自分を犠牲にし、家族に対しての時間を一生懸命作っている青年だなと。 Q:本作では中盤に主人公の交代劇、意志の継承ともいうべき転換を迎えます。彩人は実際に画面に登場しなくなるわけですが、何か意識されたことはありましたか。 内山:主人公の交代劇は最初から自分の中でテーマにしていました。1時間59分の映画なのですが、脚本でも編集でも、ちょうど真ん中でミッドポイントを迎える構成にしています。そこは表現としても重要な部分で、この作品が引き受けている性質が詰まっています。観るとより実感していただけるかなと。彩人が退場するからといって、いないものとしてはいけない。そこが最大に難しいところでもあり、興味深いところでした。日本映画としても、一つのやり方としてやってみたいなと。 磯村:後半から出なくなるから、それを計算して前半を作っていこうなどとは全く考えていませんでした。ただ、残された側の霧島さんや岸井さん、(福山)翔大など、特に家族周りの皆さんとは、撮影以外の時間でなるべく会話をして、役だけではないところでお互いの存在をしっかり残したいと思っていました。特に弟の存在と格闘技の試合は、彩人にとってかなり大きな活力になっているはずで、実際、翔大も1年掛けて練習して体つきも変え、人生を掛けて役に向き合っていました。だからこそ翔大との関係は、より深くプライベートの時間で作っていきたかった。彩人の生きた残像がしっかり残っていたのは、それぞれの登場人物が彩人を感じながら演じてくださったから。そこは他の役者の皆さんに助けていただいたと思います。
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